『黒い二、三十人の女』 君主は、戦いと軍事組織と訓練以外に、いかなる目的も、 いかなる配慮も、またいかなる職務も、もってはいけない。 ------ニッコロ・マキャベリ『君主論』 |
大公の部屋。 | |
ファーデン | 一部で戦いが始まった様子です。前哨戦程度ですが。 |
大公 | そうか!それで?どうだ?我が兵士たちは? |
ファーデン | 敗れてはおりませんが、はなはだ劣勢の様子。 |
大公 | 哀れな我が兵士たちだ。 |
ファーデン | 大公。こたびの惜敗は、武器の質による所が大きいようです。 |
大公 | ルドルフめ。攻める方は準備万端というわけか。卑劣な。 |
ファーデン | ・・・敵の策動に乗って、整備の整わないうちに戦端を開いた事、良い武器を供給する事ができずに、兵を動かした結果とお受け止めいただければ・・・。 |
大公 | なにを言う!あいつらのやり方は、騎士道に反す! |
ファーデン | (情けないとばかりに)騎士道? |
大公 | 騎士道だ。 |
ファーデン | ・・・分かりました。騎士道ですね。 |
大公 | それで、卑劣な馬鹿ルドルフの軍はどうしている? |
ファーデン | 国境線に沿って、飛距離の長いカタパルトで我が軍を攻撃しています。あえて、国境を超えようとはしませんが、その意図は・・・明白です。 |
大公 | ・・・カタパルトとは、なんだ?? |
間。 | |
ファーデン | ・・・投石機です。こういう(身ぶりでしめす)ご存じないとは・・・。 |
大公 | い、いずれにせよ。我が兵士たちは良く戦い、良く守り、敵軍を国境ギリギリの所に追い詰めているというわけだな。 |
ファーデン | (呆れて)追い詰めている? |
大公 | 言葉が悪いか?とにかく、国境を守備し、敵軍を一歩も入れない構えなのだな。 |
ファーデン | (無視して)されば大公、和解を申し入れる準備を始めてもよろしゅうございますか。 |
大公 | 和解?敵は、我が国に侵入すら出来ていないのだろう。和解など、なぜ、申し込む必要がある? |
ファーデン | 戦争を始める目的は、いかに効果的に戦争を終結させるかです。無駄な犠牲をださないためにもそろそろ・・・ |
大公 | 終わらせるために始めるだと!お前は馬鹿か!そのような戦争では大義が立たんではないか。不要だ。我が国土を蹂躙しようとあさはかにも計った馬鹿ルドルフに、その愚虜の結果を思い知らせてやれ! |
ファーデン | それでは、大公、武器の件もそうですが、我が軍への補給を完璧にいたす必要がございます。前線に、武器と弾薬、そして糧食を輸送しなければなりません。これは現段階では低下した兵士の士気を高めるためにも必要不可欠かと存じます。 |
大公 | 適当にせよ! |
ファーデン | 国庫が不十分です。税率をあげる布告をお出し下さい。 |
大公 | (優しく)税はあげん。それだけは父に約束したのだ。私はこの公国に住む全ての民を愛している。民の誰一人税があがる事に賛成する者はいないだろう。わたしは、公国の主君である前に国民の主君でありたいのだ。 |
ファーデン | しかしながら、大公。それでは、前線の兵士たちの補給が不十分になります。その結果------ |
大公 | (力強く)いかなる理由があっても、私を信じている住民たちを裏切る事はできん!! |
ファーデン | ・・・わかりました。それでは、モラヴィア との同盟を・・・ |
大公 | モラヴィア!!父の代に戦争をしている国だぞ! |
ファーデン | 前回は前回、今回は今回です。現局面でエスターライヒと戦うのならモラヴィアが最良の味方になります。 |
大公 | (いやな奴と話すのはごめんだ、というように)だからお前は馬鹿だと言うのだ。父が戦争をしたのはただの領土争いではない。やつら背教者どもの野蛮な信仰を改めさせ正しき神に帰依させるためだ。 |
ファーデン | (がっかりして)そういうお考えなら、分かりました。(恭しく一礼し立ち去ろうとする) |
大公 | ところで、ファーデン。私は、大変心を痛めておる。北極の氷に閉じ込められた鯨の件だが、なんとか助けたいと思うのだ。他の国々も救出に乗り出すと言う。私の名において、船を出せないだろうか? |
ファーデン | は?しかし、我が国に海はありませんぞ。 |
大公 | そんな事は関係ない。鯨は貴重な生き物なのだ。そうだろう? |
ファーデン | 貴重な・・・生き物です。 |
大公 | 守らねばならん。さて、私は、トランシルヴァニア・マイマイの卵の様子が気になる。いざ、温室へ。 |
大公、退場。 | |
ファーデン | ネイダフ。(怒鳴る)ネイダフ! |
ネイダフ | どうした?お前らしくないな。 |
ファーデン | 聴いていたか? |
ネイダフ | 聴いていたとも。なぜ、説得しない? |
ファーデン | (疲れたように)説得? |
ネイダフ | エスターライヒの意図は明白だ。国境領さえよこせば、このまま引き下がってもいいという示威行動だ。和睦を引き延ばせば、お前の国は本当に危ないぞ。 |
ファーデン | 分かっている。 |
ネイダフ | 大公にエスターライヒとの和睦を容認させ停戦協定に持ち込むべきだ。エスターライヒがあのような手段に出てきた今なら、国境領の住民も無駄に犠牲になることはないだろう。 |
ファーデン | あおぐ君主はかわるがな。 |
ネイダフ | あおぐ君主がかわっても人は死なん。それに死人を取りかえす事はできんぞ。 |
ファーデン | そうだ、私の作戦はそれだった。このままでは、もっとも悲惨な事態になりかねんからな。だが(素晴らしい妙案かもしれないという思いで)別の作戦も考えた。 |
ネイダフ | 別の作戦。 |
ファーデン | 通行を遮断せずには鋪装は出来ん。家の建て替えも同じ事ではないかな? |
ネイダフ | 危険な事を考えているな。ファーデン。 |
ファーデン | 最悪の事態を避けるためだ。だが・・・まだその時期ではないか。せめて、お世継ぎがいればよいのだが。 |
ネイダフ | 次の君主か?つまり、大公を弑するつもりか。 |
ファーデン | ネイダフ!口を謹め、そのような気は・・(まだ)・・ない。 |