|
| 気まずい時間が流れた。アイク、ヴィックス、リッツ、ミクは、完全にそっぽを向いて険悪な雰囲気に耐えている。 |
|
|
ロン
| さっき、その・・・ |
フシコ
| フォリッツ |
ロン
| そう、フォリッツを金儲けに使おうとしている連中がいるって言ったな? |
フシコ
| ええ、私たちが恐れているのは、その方法よ。金儲けなんてどうでも良いわ。誰かがお金持ちになったって、それはそれで良い、でもその方法はクローン人間の尊厳を・・・ |
ロン
| 待ってくれ、もう難しい話はいいよ。もし、もしだぞ、もし仮に俺が手を引いてお前にその・・・ |
フシコ
| フォリッツ |
ロン
| そう、フォリッツを渡したら・・・ |
フシコ
| いいの? |
ロン
| 仮定の話だ。それは、なんだ、簡単に言えば、良い事に使われるのか、それとも・・・ |
フシコ
| 良い事に決まっているわ。私は私利私欲でフォリッツを欲しがっているんじゃないわ。 |
フシコ2
| フシコさんは、さっきも言おうとしましたが、私の為にフォリッツを手に入れようとしているんじゃないんです。全てのクローン人間を・・・ |
セルジュ
| あのー |
ロン
| なんだ? |
セルジュ
| 電話直っているんですよ。使わないんですか。 |
ロン
| ああ。 |
セルジュ
| あなたが急げっていったから、直したのにですか? |
ロン
| 分かったよ。(フシコに)俺にはボスの意図が分からない。ただ、あれを取りかえせと言われただけだ。だから、今、なんとなく、君に渡した方が良いような気になっている。しかし、それはボスの判断だ。(電話に向かう) |
フシコ
| ボスの判断に逆らう可能性は? |
ロン
| 場合によっては。(立ち上がる) |
|
|
| ドアベルの音が響く。 |
|
|
ミク
| 誰か来た。 |
|
|
ヴィックス
| 「ジャバル・レミックスは、この日、このフラットに来た最後の訪問者でした。この3人で暮らしていたフラットにこんなに人が来た事はありませんでしたけど、とにかく彼は最後の訪問者でした。そして、それは、今までの誰よりもまともで、理性的で、思慮深く、そして最も来て欲しくない人間でした。」 |
|
|
ロン
| 静かにしてよう。 |
|
|
| すぐに人の気配がなくなるが、しばらくして、ノックが聞こえる。 |
|
|
グレーブル
| 誰もいないんですか?ヴィックスさん。リッツさん。 |
ロン
| 誰だ? |
ヴィックス
| 管理人さんです。 |
グレーブル
| お留守みたいですけど。 |
ジャバル
| そんなはずはありません。すごい人数がいる気配がします。取りあえず、開けて下さい。これが、それを許可する書面です。 |
|
|
| 二人が入ってくる。 |
|
|
グレーブル
| まあ、本当。また、ずいぶんたくさん。 |
ヴィックス
| あ、すいません。ちょっと、えー、パーティーをしてまして。 |
グレーブル
| 随分、沈んだ雰囲気のパーティーね。 |
ヴィックス
| それより勝手になんですか? |
グレーブル
| ああ、何度もノックしたんだけどね。それにこの方が・・・ |
ジャバル
| 私から。初めまして、私の名前は、ジャバル・レミックスです。私がお願いして開けていただきました。申し上げにくいのですが、居留守が使われた場合に家に入る権利があるものですから。(書面を見せる) |
ロン
| 法務局? |
ジャバル
| 私はある法律の諮問委員会の人間です。・・・えーと、リチャード・ドルフィーさんに御用があって参りました。 |
ロン
| リチャード? |
ヴィックス
| ああ、リッツ。お前に客だ! |
ジャバル
| リチャード・ドルフィーさん? |
リッツ
| 私です。 |
ジャバル
| 少し時間がかかるのですがー(椅子を求めて目配せをする) |
リッツ
| どうぞ。 |
ジャバル
| ありがとうございます。さて・・・(辺りを見回して)・・・随分、いろんな人がいますね・・・まあ、いいでしょう。昨日、ある法律に基づいて、非常に意義のあるくじびきが行われました。それは、私の担当する法案に基づく物です。 |
リッツ
| ・・・単刀直入におっしゃてください。 |
ジャバル
| 分かりました。リチャード・ドルフィーさん。あなたは、ビンゴに当選なさった。 |
ミク
| ビンゴ? |
ジャバル
| ええ、しかし当たったのは、残念ですがお金でも、海外旅行でもない。ある意味でもっと崇高なものです。 |
リッツ
| 全く、単刀直入じゃないですね。分かってます。あなたの顔はテレビで見た事がある。サバイバル・ロッタリー委員会の方だ。つまり・・・。 |
フシコ
| サバイバル・ロッタリー??って、まさか! |
リッツ
| 選ばれたんですね。僕が。 |
ジャバル
| まず、あなたの冷静さに敬意を表したい。誰もが自分の死を知らされたら、落ち着きを失うものですよ。 |
ヴィックス
| ちょっと待って、死を?死をなんだって? |
ジャバル
| 彼に与えられた崇高な義務です。彼の臓器が多くの人々を助ける事になる。 |
ミク
| リッツの臓器が?えっと、それは、リッツが脳死状態になった時って事、それなら・・・・ |
ジャバル
| いえ、二か月、正確には60日後です。 |
ヴィックス
| どういう意味だ?60日後に、リッツの臓器が何だって? |
ジャバル
| 多くの人を助けるため提供されるのです。 |
ミク
| え?じゃあ、リッツは? |
ジャバル
| お亡くなりになります。 |
ミク
| なんなの!それ、つまりリッツを殺して・・・ |
ジャバル
| サバイバル・ロッタリー法案とは、そういう法案です。 |
ロン
| なんのためにそんな! |
ジャバル
| 幸福のためですよ。全体の幸福、理想の社会の。あれだけ啓蒙活動をしたのに、まだご存じない方がいらっしゃるとは。簡単に説明しましょう。サバイバル・ロッタリー法案とは、臓器移植のために健康な市民をくじ引きで選び、その市民を犠牲にして多数の病人を救う一種の共済制度です。 |
ミク
| そんな馬鹿げた法律聞いた事がないわ! |
ジャバル
| 徴兵制はどうです?国の幸福、理想の社会のために強制的に戦場に借り出される。もちろん命を落とす方も多い。自分の命を社会的幸福の為に犠牲にするのです。サバイバル・ロッタリーも徴兵制と同じですが、ただ違う点は。徴兵された兵士は場合によっては敵国の人間を殺すかもしれないが、サバイバル・ロッタリーは確実に人間を生かすための法律です。兵士よりも英雄的と言えるかもしれない。 |
ミク
| どうしてリッツが選ばれたの? |
ジャバル
| 公平なくじ引きの結果です。全国民から無作為に選ばれたのです。ただ、例外はあります。大統領を初め議会に籍を置く人間は選ばれません。また・・・、 |
ミク
| あなたたち作る側は選ばれないってこと!作っておいて人任せ? |
ジャバル
| いいえ、私たちはただの評議委員なので選ばれます。選ばれる事にも最初から同意した上で議論を進めて来たのです。ただし、私個人に関してはある理由でこのビンゴには参加できない。 |
ミク
| どういうこと? |
ジャバル
| 私には弟がいるからです。PASE法案は、今となっては数少なく、そして精神的に非常に安定している兄弟保有者を保護するため、議会特権と同じ免責を与えています。ですから、議員が選ばれないように、兄弟保有者も選ばれません。つまりあなた方もね。ヴィックスさんにミクさん。 |
ヴィックス
| (ミクと同時に)なんで、知ってる? |
ミク
| (ヴィックスと同時に)どうして知ってるのよ? |
ジャバル
| 申し訳ないが、リチャード・ドルフィーさんの周辺については調査をさせていただきました。 |
リッツ
| (ヴィックスとミクを見て)兄弟保有者が精神的に安定しているかどうかは、分かりませんが、PASE法案については知っています。それにレミックスさん、安心してください。サバイバル・ロッタリー法案の事も僕は分かってます。 |
ミク
| ちょっと待ってよ!!そんなのリッツじゃなくたっていいじゃない!! |
ジャバル
| くじびきです。公平な原理ですよ。 |
ミク
| ちがうわよ。普通の人じゃなくて、犯罪者とか。 |
ジャバル
| 犯罪者は正当な裁きを受ける権利があります。犯罪者だからといって、命が軽視されては行けません。人の命は等しく同等なのです。私たちの国は死刑を廃止しています。つまりどのような罪も命を奪う程の罰を与えるべきではないという理念です。 |
ミク
| じゃあ、リッツの命は良いの? |
ジャバル
| 私は別にリッツさんの命を軽視しているわけではない。あなたは、勘違いをなさっているようだが、サバイバル・ロッタリーに選ばれる事は徴兵制と同じく、国民の義務なのであって、何かの罰ではないのです。 |
ロン
| だが、それをやるかどうかはリッツが決めて良いんだろ? |
ジャバル
| いいえ。選択権はありません。もう、そう決まったのです。 |
ロン
| 馬鹿な。臓器提供者は、自分でその意志を明確に出来たはずだ。なんとかカードを書いてほら、脳死状態になった後、自分の臓器を提供するか否かは自分で決められたはずだ。 |
ジャバル
| 自己決定権ですか。自分の物は自分の好きにして良いという理屈です。でも所詮地球は限られた空間なのです。自分の庭から出た石油は自分で全部使ってよい。自分の国の森林だからすべての木を焼き払って工業プラントを建ててよい。そうやって見てご覧なさい。地球はひどい有り様だ。 |
ロン
| だけど、それと命は別問題だろ? |
ジャバル
| その問題については国民規模での話し合いの場が何度か持たれました。あなたの言うように命を自己決定権の範囲外とすると、お腹の中の子供を中絶する事ができなくなるので、多くの反対があがったのです。 |
ロン
| 待て、そもそも臓器提供は、脳死状態の人間から受ける事になっていたじゃないか。 |
ジャバル
| 何十年前の話をされているのです?良いですか、高圧酸素療法がある今、脳死状態になる人間などゼロに等しい。逆に臓器提供を待つ患者数は増える一方です。地球の人間全体の幸福を鑑みるなら、命も個人の所有物ではなく、全体の資源と考えるべきなのです。大切な物だからこそ、皆で守っていかなくては、とね。 |
ミク
| 個人の幸せをないがしろにしてですか! |
ジャバル
| 個人の幸せを最大限に考えると、全体の幸福が損なわれる事が分かったのです。奴隷制や資本主義の事を考えてみなさい。一部の人間を幸福にするために多数の人が労働や苦役に従事する。他人の不幸の上に築かれる幸福なのです。 |
ミク
| 同じ事じゃないの?サバイバル・ロッタリーだって、他人の不幸の上に築かれている。 |
ジャバル
| そこです。いいですか、100人の奴隷の上に築かれる1人の人間の幸福と、1人の志願者の上に救われる100人の命。比較してみて下さい。多くの犠牲の上に選ばれた少数の人だけが恵まれている社会と、少数の犠牲でより多くの人が幸福になるような社会。どちらがより健全な社会だと言えますか? |
ロン
| しかし、臓器提供がなければ、死んでしまうような人をだよ。わざわざ、生かす必要があるのかね? |
|
|
| 一同、驚いてロンを見る。 |
|
|
ジャバル
| これはまた、随分急進的なご意見だ。傷付いた者は放っておけば良い。全体の幸福度はその方があがりますが。確か、かつて自分の国をそのようにして浄化した人間がいましたね。生まれながらの重病人、遺伝疾患、身体障害者、貧困者をまとめて殺害して、自分の国には不幸な人間はいないと豪語した。その考えとの比較は評議会では取り上げなかった。 |
ミク
| ロンさんはそこまでは言ってないわ。殺せだなんて。ただ人の命を犠牲にしてまで助ける必要なないって。 |
ジャバル
| そうですか?それは失礼いたしました。いずれにせよ。今申し上げてきた事はサバイバル・ロッタリー法案の評議会、ならびに国民の会議で言われて来たことで、私の個人的な主張とは多少食い違いますがね。さて、私はリッツさん、あなたに決定を伝えに参ったのです。やるかやらないかではなく。あなたは「志願者」に選ばれ、それはもう覆らない事実なのです。ただ、正直を言えば、評議会のアセスメント方面の担当として、「志願者」の生の言葉や周囲の反応をリサーチするという狙いも私にはありました。 |
ロン
| 「志願者」だって? |
ジャバル
| 法律上、ドナーの事をそう呼びます。 |
ヴィックス
| 崇高だ、幸福だって、さっきから、うさん臭い言葉で飾っているだけで、やってることは殺人じゃないか! |
ジャバル
| 殺人ではありません。国民によって承認された法の執行です。言葉に気をつけていただきたい。だいたい、あなたはその自分の態度をしかるべき時に明確にしたのですか?この法案は押し付けではなく国民投票という民主的な手続きを踏んで成立したのです。この法案にケチをつけるあなたは、その時、反対票を投じたのですか?もしくは投票に行かれたのですか? |
ヴィックス
| クソ!(頭を抱え込んで後ろを向いてしまう) |
ミク
| 教えて下さい!それしか方法はないの?臓器移植を待つ患者さんは救ってあげたいし、だからといって、誰かの命を犠牲にするのはつらすぎるわ。 |
ジャバル
| 方法はありました。が、潰されてしまいました。 |
ミク
| え? |
ジャバル
| そういう事もご存じではないんですね。無理はないか、あなた方の世代では幼すぎた。 |
ミク
| どう言う事? |
ジャバル
| クローン人間禁止法案です。私たち科学者は分かっていました。衛生的な世の中は人の寿命を延ばす。そうなれば必ず臓器は磨耗する。ラジオを長く使うには、何度も修理が必要なのと同じです。そうなれば、近い未来に確実に移植用臓器は足りなくなる。そこで、クローン人間を作り、その臓器を移植用に利用する。 |
ミク
| なるほど。 |
フシコ
| なるほどじゃないわよ。ミクちゃん。そんなの |
ジャバル
| 「生きた臓器工場」といって、大反対が起こりました。結局、クローン人間禁止法案が批准された。クローン人間の人権保護の観点から。 |
フシコ
| 当たり前よ。臓器を取られて殺されるために命を作るなんて許されないわ! |
ロン
| 臓器だけをクローンにできるって聞いた事がある。クローン人間を作らなくても、クローン臓器を作って移植すれば、人権を気にしなくても良いんじゃないか。 |
ジャバル
| 勉強家でらっしゃる。それが実現していればと思うと残念でしょうがない。クローン臓器の製造、また動物との異種間移植、いろいろな方法がそれぞれに問題を含んでいた。(クローン臓器を作るためとは言え、クローン胚を子宮に入れればクローン人間が生まれてしまう。)クローン人間禁止法案成立後、クローン技術の研究がどのような制限を受け、どのように衰退していったか。残念だが、現状では、私たち人間は私たち人間の臓器だけを受け入れる。豚の肝臓や実験室で作られた腎臓はお気に召さないらしい。 |
ロン
| クローン人間の臓器なら受け入れるのか? |
フシコ
| 学習能力がないの?クローン人間は、そんな名前だけど何もかも人間と変わらないのよ。説明したでしょ! |
ロン
| いや、 |
フシコ
| そして!同じ理由で、臓器を取るためのクローン人間なんて許されないの!分かってるの?デブ! |
ロン
| デブって。 |
ジャバル
| (笑って)だから、今いる人間の中から臓器を募るしかない。簡単な話です。 |
フシコ
| あなたは、クローン人間から臓器を取る方が良いと思っているの? |
ジャバル
| 先ほども言いましたが、私は、どうしてもサバイバル・ロッタリー法案を推し進めたいわけではありません。はっきり言えば、方法は問題視していない。大事な事は、より多くの人間が幸福になる事です。そして、現実として、クローン人間を使うアイディアは否定され、人間を使う方法は肯定された。それに昔は脳死患者から臓器が取られていたが・・・脳死患者に人格がないとどうして分かるのです? |
|
|
| 一同静まる。 |
|
|
ジャバル
| まあ、私も脳死したことはありませんから、私にもわかりませんがね。 |
ミク
| ・・・リッツに人格がある事は確かよね。 |
ジャバル
| もちろんです。(だんだん語りが乗ってきた)しかしせっかくだから、持論を申し上げますと、私は、クローン人間の人格についても、やや、判然としない所があります。無論、彼等には人格があります、その事は認めますが、何となく、私の人格と全く同じだという確信が持てないのです。そのせいか私はクローン人間を見ると、背筋に寒気が走るのです。 |
フシコ
| (笑う)正体を現したわね。非科学的で独善的な男よ。あなたは! |
ジャバル
| (一瞬ムッとするが、褒められたという演技をして)いえ、単なる感想で。それに背筋が寒くなると言うのは事実ですよ。 |
フシコ
| 証明できない嘘をつくのね。科学的じゃないどころか、占い師と変わらない。 |
ジャバル
| 私は何も・・・ |
フシコ
| 証明できるわよ。 |
フシコ2
| フシコさん。 |
ジャバル
| は? |
フシコ
| この中にクローンがいるわ。当ててご覧なさい。 |
|
|
| ジャバルはしばらく一同を見渡して、迷い気味にアイクを指さす。 |
|
|
フシコ
| ほら、馬鹿ね。区別もつかないの、(フシコ2を指して)これがクローン、私のクローンなのよ! |
ジャバル
| そんなに似てないクローンはいない。 |
フシコ
| な! |
ジャバル
| お気持ちは分かりますが・・・まあ、良い。(笑って)もしあなたの言う事が本当なら、あなたは犯罪者かもしれないのですよ。クローン人間作りは現在は違法行為だ。ねえ。(フシコ2に)あなた彼女のクローンですか?冗談はなしですよ。 |
フシコ2
| いいえ。違います。。 |
ジャバル
| ほらね。 |
|
|
| フシコ、何か言おうとするが、ロンに止められる。 |
|
|
ジャバル
| (やや気を悪くして)さて、私は意見を伺いたかったのであって、糾弾されたり、馬鹿げたテストを受けるために来たのではありません。そろそろお暇しよう。その前に一つだけ。言わせて欲しい。(厳粛な態度ではあるが、一同を叱責するような口調ではなく)あなたがたはクローン人間製造の反対を国が主導した時も、自分には関係ないような態度をとって問題に積極的に参加しようとしなかった。だが、いざ被害が自分の身にふりかかった時になって、しのごの言い出す。私たち科学者は全ての国民に考えてもらうように様々な提案をしているのに、結局、我が身可愛さの思考しか浮かばない。そして、最後にはいつも科学者のせいにする・・・。 |
フシコ
| 自分の身に降り掛かった時に考えるのよ!それが人間じゃない! |
ジャバル
| (腰を上げながら)それが人間と言うなら、それでも良いです。そうやって、貴重な資源は枯渇し、無益な戦争が始まっている。宿題を先延ばしにする子供が、そのまま大人になって今度は地球を破壊していく。常に自分の足下を掘り崩す、それが人間なのなら。リッツさん。次回お会いするときまで充実ある余生を。 |
リッツ
| 分かっています。今日はわざわざありがとうございました。 |
ジャバル
| あなたは、立派な人間だ。では失礼。 |
|
|
| ジャバル去る。 |
|
|
フシコ
| なんて、男なの!殺人を正統化するためによくもあれだけいろんな理屈が言えるもんだわ!! |
リッツ
| 正当化はすでにされているんです。法律ですからね。 |
ヴィックス
| 俺のせいだ・・・。 |
ロン
| え? |
ヴィックス
| 俺のせいだ。そんな法律ができちまったのは! |
ミク
| 何を言ってるのお兄ちゃん。投票に行かなかったのはお兄ちゃんだけじゃないわ。 |
リッツ
| 俺も行ってない。 |
ヴィックス
| 違う!!俺は投票に行った!! |
ミク
| それなら良いじゃない。 |
ヴィックス
| ミク!リッツ、俺は・・・俺は・・・○をつけたんだ。賛成って、書いてある方に○を。あの法案に賛成票を投じたんだ。 |
ミク
| どうして? |
ヴィックス
| 母が。 |
リッツ
| そうだったな。ヴィックスのお母さんは、臓器移植を待って、結局助からなかった。 |
ヴィックス
| 母の病気は染色体異常から来てるんだ。女系の子孫は発症する可能性が高い。ミク。そうなった時、お前は誰から臓器をもらうんだ?ドナーが見つからないとお前が死んじゃうかもしれないんだ!ドナーが、ドナーが足りないんだ・・・。リッツ。許してくれ。俺は・・・賛成を・・・。 |
リッツ
| 投票は各人の政治判断だ。お前には選ぶ権利があり、誰もその選択を責める事は出来ない。 |
ヴィックス
| リッツ、逃げよう! |
リッツ
| 逃げる? |
ヴィックス
| そうだよ。お前が殺されるのをむざむざ見ていられるか!なあアイク。 |
アイク
| ・・・。(夢遊病のようにアタッシュケースの方へ歩いていく) |
ヴィックス
| おい、アイク!! |
リッツ
| 良いんだヴィックス。俺は逃げない。確かに死ぬにはまだちょっと早い気もするけど、若くて健康な臓器だ、きっと役に立つだろう。1人が死んで10人が助かるなら、そして、より多くの人が幸せになる事が正義だと言うなら、反対できないよ。 |
フシコ
| 残念だけど、あの人たちがあなたを殺す事と、あなたがそれを拒む事、どちらが違法行為かと言えば・・・あなたが逃げる事だわ。 |
リッツ
| そうですね。 |
|
|
| アイク、アタッシュケースを持って戻って来る。 |
|
|
アイク
| リッツ。これを渡して、終わりにしよう。 |
ミク
| アイク。それでも解決にならないわ。 |
アイク
| これを渡せば、みんなに帰ってもらえるんだろ?3人の生活に戻ろうよ。 |
ヴィックス
| アイク。 |
リッツ
| アイク。俺もお前の言うように、残りわずかな時間を3人で暮らしたいな。さっきは悪かったな・・・・面白いもんだ。死ぬと分かると急に気持ちがスッキリするよ。 |
アイク
| 言うなよ!死ぬとか、残り少ないとか! |
リッツ
| 事実だ。それから、最後の頼みだと思って分かってくれ。それは渡せないんだ。それは俺の物なんだ。 |
ロン
| わかった。もう君からそれを奪おうとは思わない。それより、どうにか死なない方法を考えるんだ!若いお前らが、諦めてどうする!馬鹿か!!電気屋!電話は直ったのか! |
セルジュ
| 直ったっていったでしょ! |
ロン
| ボスに連絡が付けば、君たちを匿えるかもしれない。もともと誘拐して消えてもらうプランもあった。 |
リッツ
| やっぱり。 |
|
|
| ロン、電話をするが、つながらない。 |
|
|
ロン
| ダメだ。やっぱり、休暇中だ。 |
フシコ2
| 移動電話は持ってないんですか?ボスさん。 |
ロン
| あ!(大急ぎでダイヤルを回す)・・・呼び出してる。 |
|
|
| と、部屋の中から、携帯電話の鳴る音がする。 |
|
|
グレーブル
| 携帯は入らないはずなのに・・・。 |
リッツ
| 割と入るみたいですよ。 |
|
|
| 一同が不審に思い音の発信源を辿る、一同の目がある人物に注がれる。 |
|
|
ロン
| 電気屋? |
セルジュ
| (不適な笑みを浮かべ、今までとは全く異なる光を目に宿す。ゆっくりと携帯を取って、何かありそうに見せ掛けておいて今まで通りの芝居で)はい。電気屋のセルジュ・大前頭です。 |
ロン
| 間違いか? |
セルジュ
| (芝居を変えて)間違いではない。お前の仕事振りにはほとほと呆れた。 |
ロン
| ボス!?どうして? |
セルジュ
| ボスじゃない!馬鹿め!どじめ!亀め!いいか、フォリッツは重要な取引きの材料なんだ!お前に任せたのは良いが、あまりにも心配だったので、私が最初から監視に来ていたんだ。 |
ロン
| ちょうど良い。ボス。どうにかしてこいつらを・・・ |
セルジュ
| ちょうど良いじゃない。馬鹿め!どじめ!亀め!電気屋を装って来たが、まさかお前が壊した電話を直す事になるとはな!まあ、見よう見まねで直ったから良いような物の・・・ちなみに風呂場のヒーターは直っていない。 |
リッツ
| あらら。 |
セルジュ
| それは、電気屋に頼め。全くひどい仕事ぶりだ。室内で発砲しようとした時には驚いたぞ。 |
フシコ
| あなたの組織の名前は?フォリッツについて知っているわね。 |
セルジュ
| 君の説明はちょっと足りていないな。フシコ・フィッツジェラルド・サワダくん。 |
フシコ
| 私を知っているの? |
リッツ
| ずっと一緒にいたじゃないですか? |
セルジュ
| 急進的なクローン保護運動家。本業はフランシスコ・ザビヌル&パウル・ペトルチアーニ・カンパニーの研究員。・・・君に気をつけるように言われていたよ。 |
フシコ2
| フシコさん。気をつけて。 |
フシコ
| フレディよ。あいつが、開発途中のフォリッツを流用してあなたたちと接触した事は分かっているわ。リトル・ビッグ・ホーンの!エンリケ・スギタ!! |
セルジュ
| なかなかの名探偵振りだな。 |
ロン
| それじゃ、フォリッツを金儲けに使おうとしている組織って、やっぱりうち?。 |
セルジュ
| 今さら何を言っているんだ?馬鹿め!どじめ!亀め!しかし、フォリッツを盗んだ張本人がサバイバル・ロッタリーに当たるとは、ビンゴを回したのは神様なんじゃないかな?ねえ、フシコくん。 |
フシコ
| 黙りなさい! |
セルジュ
| なぜだね?私がしゃべると、折角君がうまく丸め込んだ皆さんが私の味方についてしまうからかい? |
ロン
| 味方に? |
フシコ
| 黙って、私から説明する。 |
セルジュ
| どう説明するんだね。フォリッツを使えばサバイバル・ロッタリーから逃れられる事を知っていたのに、それを黙っていた理由を! |
ヴィックス
| 逃れられる?それは、どういうことです!! |
フシコ
| 隠してないわ。ばたばたしてて言う機会がなかっただけよ。 |
ミク
| フシコさん。どういう事?教えて。 |
フシコ
| この人が言うような正しいもんじゃないわ。サバイバル・ロッタリー法案が通る事を見越して人殺しをビジネスにしようとしたのよ! |
ヴィックス
| それだと、どうしてサバイバル・ロッタリーから逃げられるんです? |
フシコ
| ・・・。 |
フシコ2
| 先程、説明したように。フォリッツを使えば、クローン人間を人間化できます。例えばリッツさんがサバイバル・ロッタリーに選ばれた時・・・ |
フシコ
| 例えばじゃないわ! |
フシコ2
| すいません。じゃ、アイクさんがサバイバル・ロッタリーに選ばれた時、アイクさんが自分のクローン人間を作っていれば、そのクローンを人間化して、アイクさんだと言って引き渡せば良いのです。本人照合は遺伝子で行いますからまずばれないでしょう? |
セルジュ
| まあ、移植前の検査や、もっと言えば、移植時の解剖の時、体内の「D-レヴィ」が発見されてしまうかもしれないがね。 |
ロン
| じゃあ、駄目じゃん。 |
セルジュ
| 亀!・・・ビジネスだ。協力者はいるものだよ。 |
フシコ
| 汚いビジネスよ!多くの罪のないクローンがそのために作られては、処刑台に送られる。 |
セルジュ
| 人助けだと考えていただきたい。ねえ、みなさん。確かに戸籍上は死人になってしまうが、殺されるより良い。サバイバル・ロッタリー法案は悪法だ!我々は、そこから逃れるすべを(アタッシュケースを見て)見つけるべきです。 |
フシコ
| みんな騙されないで。この人は、自分の代わりに殺される人間を作れと言っているのよ。そんなの人間のすることじゃない。 |
セルジュ
| 私ではなくリッツ君とみなさんに言いなさい。身替わりなんか作らないで、死んで来いと・・・。 |
|
|
ヴィックス
| 「この後、論争は何時間も続きました。テーマの見えない。善悪の不明な。僕らの頭のずっと上の方で得体の知れない巨大なビンゴがガラガラと音を立てて回っている、この恐怖心を拭おうと。幸福と正義と公平が手に手をとって回すこのビンゴにどうやって立ち向かえば良いのでしょう?」 |
|
|
リッツ
| クローン人間を作って身替わりにすることは、絶対にできない!絶対に! |
|
|
ヴィックス
| 「結局クローン人間を作る事にリッツ本人が強く反対をしたので、フォリッツを使う案は却下されました。」 |
|
|
リッツ
| その代わり、アンドロイドを作るよ。それを身替わりにしよう。すぐばれるとは思うけど、その間に逃げるって事で良いだろう? |
ミク
| アンドロイドって何よ〜。そんなもの作れるわけないでしょ!! |
リッツ
| 大丈夫、俺には作れる。 |
|
|
ヴィックス
| 「アンドロイドを作りに行って来ると言いリッツは出かけた。アンドロイドが出来たら、すぐにここに送る。俺はそのまま姿を消すよと言って。こうして、思いもかけぬ展開で、僕らは解放され、招かれざる客たちは引きあげていった。」 |
|
|
リッツ
| さよなら。みんな。 |
|
|