『★BINGO』

Act I Scene 4【ADD】

  一時間後。3人の足はそれぞれカーボンファイバーを束ねたロープで移動には不便がない程度に右左がつながれている。拘束というよりは、自分のフラットに軟禁された状態だ。ロンはベッドに腰を落としている。その形容は「がっくりと」であり、度重なるショックで身長すら縮んだかに見える。ヴィックスは彼に同情や憐憫を感じている。リッツはパソコンの前で優々と爪を切っている。まるで自由な様子で。


ロン    (卑屈な笑顔を浮かべてリッツに)たばこもらってもいいかい?
リッツ    いいですよ。医者に止められてないのなら。
アイク   (小声でリッツに)ねえ。・・・ねえ。
リッツ    うん?
アイク    どうして渡さないの?
リッツ    え?
アイク    価値のないICだって言ったろ。そんなのあの人に渡しちゃって持っていってもらえばいいじゃんか。
リッツ    価値のないICを組織の回収屋がわざわざ銃を持って回収に来るか?それほど重要なものなんだよ。
アイク    だけど!いや、それはそうだけど、だからってこんな危険な目にあってまで守るようなものじゃないよ。返しちゃおうよ〜。
リッツ    危険な目?(当たりを見回す。ロンが片隅で所在な気に煙草を吸っている)あ!
ヴィックス どうした?
リッツ キーボードに爪が入った。取れないなこれ。
アイク    (ロンに)ICを返せば、引き取ってくれるんですよね。何もせず。
ロン     え?あ、俺?あ、そうだね。なんか煙草とかもらっちゃてるしね。IC返してくれれば帰るよ。
アイク    ほら。ああ言ってるよ。返すよ。(アタッシュケースを持つ)
ロン     でも、それ偽物なんでしょ?
アイク    リッツ。どこに隠したんだよ〜。返そうよ〜。
リッツ    ・・・。
ロン     その人、ちょっと恐いよね?
アイク    頑固者で。(溜め息)はぁー。
  ヴィックスが、足のロープにつまづきそうになる。


ロン     悪いね、それ。
ヴィックス  え?
ロン     ほら、足。一応ね。
ヴィックス  ああ。(無理に笑いながら)別に、逃げませんけどね。
ロン     それは、もう私が脅威じゃないってことだよね。
ヴィックス  えっとー、コーヒー煎れますね。
ロン     なんか・・・悪いね。
ヴィックス  いえいえ、なかなか帰らない親戚みたいで、楽しいですよ。それに、もとはと言えば、こっちが盗んだのが悪いんで。返してもいいんですけど・・・リッツが。
ロン     頑固なんだってね。
ヴィックス  まったく。(そそくさとキッチンへ)


  コンコンという音がする。


ロン     ん?(周囲に集中する)


  再び、コンコンという音がする。誰かが窓を叩いているのだ。一同が窓に目を向ける。


ヴィックス  (戻って来て)どうし・・・
ロン     し!


  窓には当然ロンによってカーテンがひかれている。ロンはプロらしく安全な壁際に立ち、カーテンを少し動かし、細い隙間から外を見る。この部屋は、13階のフラットだが、窓の外は共用部分で廊下になっている。


ロン     女の子だ。おい。


  ロンはアイクを呼びよせ(一番、協力的に思えてきたのだ)、確認させる。


アイク     ミクちゃんだ。


  しばらく周囲を沈黙が支配する。それを破ったのは、ミクの声だった。


ミク     (声のみ)お兄ーちゃん。いないの?
ロン      誰だ?
アイク     ヴィックスの妹。どうする?ヴィックス。


  ヴィックスは黙り込んだ。ロンが彼の沈黙を誤解して、それに同意した。


ロン      そうだ、それが良い。居留守を使おう。これ以上、巻き込むわけにはいかない。
アイク     でも・・・。(顔を臥せる)
ミク     (声のみ)お兄ちゃん。いないのねー。
ロン      彼女を部屋にいれたら、おまえらと同じ扱いになるんだぞ。
アイク     いや、だけどぉ・・・。
ロン      私は、親切でいってるんだ。ここに入れば、彼女も銃を突き付けられ、足を縛られるんだ。そうせざるを得ないんだよ。どうして、それが・・・


  ふと、ロンが黙った。玄関のドアの辺りでなにやらカチャカチャという音がしだした。明らかに鍵穴に鍵を差し込んでいる音だ。


ロン      合鍵か。(悶絶して)
アイク     だから、そう言おうと思ったのに


  ミクが部屋に入ってくる。ロンが仕方なく、銃をミクに向けると、ミクはすかさず、銃口に人さし指をつっこんだ。


ミク      どうだ。撃てるか?(すぐに、指を抜いて)みんないるんじゃない?今度はなんの遊び?


  ロンは傍らを通り過ぎるミクにがっくり銃を降ろした。


ヴィックス (演技をして)ミク。初めてだろ。こいつ、えーと、イエロー。昔のダチ。な?(ロンの肩に手をおく)
ロン (まず、おおぶりに、なるほど、その方法で行くか!と演技をしてから、咳払いなどして、不必要な演技をつけて)イエローです。
リッツ ミクちゃん。元気?
ミク うーん。どうかな?リッツは?
リッツ うーん。どうかな。
ミク ちょっと、冷蔵庫かりるね。


  そう言うとミクはキッチンへ向かった。ミクに感づかれないように、帰ってもらう。その線で4人の気持ちは一致した。


ミク やだ、冷蔵庫、空っぽじゃない。あとで、買い物行ってくるね。


  と、部屋に戻ってきて、ミクの動きが止まった。


ミク あれ、なんで、足に鎖ついてるの?
3人 (バラバラの回答)
ミク え?
アイク え?鎖?く、鎖なんてついてるかなぁ。僕らには見えないよ。


  アイクの回答は、もはや神学的に高尚な愚昧ささえあわせ持っていた。


ミク イエローさんだけ、ついてないんだ。へんなの?、これ食べてて。あ、これも冷蔵庫か。


  何ごともなかったようにキッチンへ向かうミクに一同はほっとしたのも束の間、再びミキが立ち止まった。その目線の先は、痛々しく破砕された電話器に注がれている。


ミク やだ。電話どうしたの?
アイク え?電話?僕らには見えないよ。
  ミクはふりかえって、イエローの銃をじっと見つめた。頭が回転する。脳内に警報が鳴る。


ミク あー。用事を思い出した。帰ります。
ロン (すぐに後を追いミクを捕らえ、部屋に戻す)やむを得ない。もう少し頭の悪いコなら良かった。
ミク あの、やめてください。私、なーんにも見てませんから。鎖とか電話とかあなたとか見えてませんから。
ヴィックス 手荒なことするなよ。
ロン 私は紳士だ。
ミク あのー。本当に私なにも見てません。私、実は、目が見えないんです。
 
  ミクは急に目が見えない振りを始めた。人間気が動転するとなんでもするな、とリッツは思わず観察した。


ロン      座って。
ミク うちに帰してください。絶対に、兄を助けようとなんてしませんから。いや、ラッキーって感じなんですよ。私、この人、嫌いなんです。せこいし、やらしいんですよ。こんな奴、死んじゃって正解ですよね。
リッツ (鼻白んで)おいおい。
ミク あ、この二人もです。もう、社会のゴミですから。バーンってやっちゃってくださいよ。あ、なんなら、お手伝いしましょうか?あたしは、こう見えても・・・
ロン こう見えても?
ミク ただの・・・いえ、いいです。やめます。
ヴィックス おまえ、そんなにまでして、自分が助かりたいか?」
ミク だって、お兄ちゃんたちのお客でしょ?あたし関係ないもん。お兄ちゃんなんて、勝手に死んでもいいけど。あたし、お兄ちゃんの巻添えだけは、ごめんこうむりたいのです。
ヴィックス ロンさん。こいつ撃っていいですよ。
ミク リッツさん。助けて。
リッツ さっき、社会のゴミって。
ミク 強盗さん!どっちを選ぶんですか?このやらしい顔をした男と、可憐な私と。
ヴィックス おまえ!
ロン やめないか!兄弟喧嘩は見苦しい!まあ、なんだ・・・その、私が言えた立場じゃないが・・・。あのね。おじょうちゃん。私は、強盗じゃないの?私は、回収屋だからね。関係ない人は巻き込みたくなかったの。だから、居留守を使ったのに、おじょうちゃんが合鍵を持ってたからね。


  なぜか、一言一言が、バタフライでもしているかのように彼の体力を奪っていくのをロンは感じた。


ミク それじゃ、なにもしない?
ロン お嬢ちゃんが、私のいうことを聞いて、この部屋にいてくれたら、なんにもしない。
ミク (カバンの中から本を出して)ヴァージニア・ウルフに誓う?
アイク なんで?
ミク 誓う?
ロン ああ、ああ、誓うよ。
ミク やー、なんか。良い人ー。安心しちゃった。わたし。よかった。もう、ドキドキしちゃってさぁ。あなた、よく見ると、ちょっとかっこいいわね。それに、良い人だし。気にいっちゃった。ああ、もう、そんな安物のコーヒーなんて飲ませて。ちょっと待って。(キッチンへ足早に移動)あー、本当にカラッポこの冷蔵庫。(悪態をつきながら、戻ってくる)ちょっと待っててくれる?あたし、なんか買ってくるね。冷たいものが良いわよね?暑い暑い。(と言いながら、フラットから出ていく)
ロン (やっと自分が信じる理性的で論理によって支配された世界が戻ってきた気がしてほっとため息をつく。)なかなか、変わった娘だ・・・が、悪い娘ではないな。私がいうのもなんだけど、可愛がってやりなさいよ。
アイク あのー。
リッツ やめとけ。
ロン この時勢、兄弟がいるって事自体がステータスでしょ?私から解放されたら、大事にするんだよ。
アイク (ロンに)根が優しい?
ロン そうそう。根が優しいんだな。人間肝心なのは、根だな。根。


  そう言うと、煙草の煙りを吐き出した。彼の心は満足感で一杯だった。この部屋の状況を把握している人質を一人取り逃がすという致命的なミスは、まだ彼の心に浮上してこない。リッツとアイクとヴィックスは一ケ所に集まって相談を始めた。


ヴィックス 全然、気付かないな。あの人。
アイク 本当にプロなのかなぁ?
リッツ 人が良いんだろ?
ロン 根が優しいか、君は良い事を言ったね。
ヴィックス あいつの事だ。もう警察に通報しているだろうな。どう思う?
リッツ 警察が踏み込むとなると、組織の人間としては逃げるしかないだろう。我々を人質にとった所で、誰が助けに来るわけでもないし、そうなれば組織に戻れなくなるのも必至だろう。その程度の頭は働くと思うが。いずれにせよ、これで終わりだな。
アイク (逆に残念そうに溜め息をつき、ロンの肩に手をおく)あのー。差しでがましいことをいうようですが、いろいろ、がんばってくださいね。
ヴィックス 「彼は、自分が何を応援されているのか、よく分からなかったようです。しかし、彼の頭脳はこの分からなさをほったらかしにはしなかった。なにか変だぞと思い、いろいろ思い当たる節を考えて行った。一つ、二つと数を打ちながら、数々の事象を丹念に洗い直して行き。やがて・・・」
ロン あ————!
ヴィックス 「地響きのような無気味な音を口腔から発し、側頭部を押さえて、その場にくず折れました。そのまま、数分の時間が流れ、この金曜の朝のダストボックスのような男が発する不幸な空気がこちらの精神状態にも致死的な悪影響を与えていると、リッツが確信しだした時」


ミク ただいまー!!


  約束通り冷たい飲み物を手にしてミクが帰ってきた。


ミク ねえねえ。なんか外に変な人がいるよ。
リッツ ただいまって?
ミク 早かったでしょ。やっぱ。下がスーパーだと助かるわぁ。
アイク スーパーいって買い物してきただけ?


  ミクは一瞬、きょとんとしたが、2秒乃至3秒くらいで、顔かが青くなり、1秒程で前より赤くなった。そして、悔恨の涙を流しはじめた。


ロン そう、気を落とさないで、君が、良い娘である証拠ですよ。
ヴィックス 馬鹿!
ミク ごめんなさい。わたし、馬鹿ね。本当に、馬鹿ね。
ロン 何を言っているんだ。君が謝る必要なんてない。ミクちゃんはがんばった。
ミク ありがとう。イエローさん。
ロン      ロン。
ミク      イエロン?
ロン      いや・・・
リッツ     ところで、ミクちゃん。
ミク      なによ。リッツ
リッツ     変な人って誰だい?
ミク      は?変な人?
リッツ ミクちゃん、帰ってきた時、外に変な人がいるって言ったよねぇ。ドタバタしていて忘れたかな?
ミク あ!そうそう。窓の外の所に、変な女の人が立ってたの。
リッツ 変な?ロンさん、何か思い当たります?もし、あなたが我々に分からない手段で味方なんかを呼んだのなら、こちらも考えますよ。
ヴィックス あまり失礼な言い方をするなよ。リッツ。
ミク イエロンさんは、悪い人ではないわ。
アイク そうだよ。第一、この人に味方なんていると思う?
リッツ ミクちゃん。どんな人?
ミク えーと、背の高い女の人で、私に気が付いて何かを隠したわ。黒い物。
アイク 銃かな?
ミク ううん。違うと思う。まだ、きっと窓の外にいると思う。ちょっと待って。


  ミクは素早く窓の所まで行き、カーテンを勢い良く開けた。ヴィックスの「待て」という制止など耳に届いていない。カーテンが空けられると、大きな窓があらわれる。この窓は、このフラットで一番大きな窓だが、何故か廊下側についている。カーテンをあけると部屋の中が丸見えだ。そんなわけで、たいていカーテンは閉められているし、ロンも同じ理由からカーテンを閉ざしていた。ミクがカーテンを空けた途端カメラのストロボが光る。2回、3回、4回、5回、数えきれない程の連続撮影。そして、まるで、マシンガンを全て撃ち尽くしたとでもいうように、黒いカメラを降ろした背の高い女は、一目散にその場を走り去った。
 室内の一同は、フラッシュをたかれた時のクリシェ的ポーズ(片手を上げ、目を隠す)をとった。ただ一人、ロンだけは違った。一同が上げた手を降ろすより早く、女を追って飛び出して行った。
 そこで、動いたのがリッツ。ロンのいないすきに、何ができるか?そう、例のICを隠そうとする。


ヴィックス うわー。やっぱ本物ぉ?
リッツ 大事な物だ。渡すわけにはいかないんだ!


  窓の外にもみあいながら歩いて来るロンと女の姿が見える。そして、間もなく2人は、窓の外から消えた。室内に戻ってこようとしているのだ。


ヴィックス 大事な?・・・リッツ、戻って来る。急げ!


  リッツは急いだ。そして、まさに間一髪という所で、彼らの部屋に入ってきたのは、見知らぬ男だった。室内は騒然とした。異次元からワープでもしてきたみたいに突然わいた男。この男は何ものだ??男は、リッツの顔をじっと見つめて、数歩前へ出た。


セルジュ (ひどく訛りのある声で)終わりましたよ。
 
  そこに女を引き摺るようにロンが入ってきた。スタイルが良く、なかなか美しい女だ。


ロン 座れ!
フシコ2 なによ。離してよ!
ロン 誰に頼まれた?
フシコ2 何言ってるの?ちょっとやめてよ。
ロン どこの組織だ?フォンテッサか?リーピン&ローピンか?
フシコ2 なによ、それ。しらないって。
ミク やっぱり、ロンさんの知り合いじゃないんですね。
ロン もちろんだ。(オーバーに)もっと私を信じてくれ。貸せ。(女のカメラを奪い、床に叩き付けようとした。)
フシコ2 ちょっとなにするのよ。やめて!!
ミク 待って、この人が口を割らなくても、撮っていた物を現像してみれば、何が狙いかわかるはずです。
ロン 流石!さあ、カメラが壊れるだけじゃ、すまないぞ。おまえは誰だ?
フシコ2 もう、悪かったわよ。確かに隠し撮りをしたけど、そんなに怒らなくたっていいでしょ。
ヴィックス 隠し撮りっていうか?あれ。 
ロン いいから、答えろ!お前は誰だ?
フシコ2 分かったわよぉ・・・私は・・・
ロン ちょっと待って。
フシコ2 何よ!
ロン っていうか・・・(うって変わって静かな口調で)誰?
フシコ2 だからぁ。私は・・・
ロン いや・・・この人。(ゆっくりと、先ほどの訛りの強い男を指さした)あなた、さっきまではいませんでしたよね。
セルジュ    え?私?
ロン      ええ。誰かのお兄さん?
セルジュ    いえいえ。めっそうもない。
ロン      今まで。どこに?
セルジュ え、そりゃ、バスルームにいましたよ。
ロン なんでバスルームに?
セルジュ なんでって?仕事ですから。
ロン 誰か,この人知ってる?


  数秒の沈黙が流れた。一同顔を見合わせる、最終的にフシコ2に目が行くが、


フシコ2 私?わたしは知らないわよ。
ロン おまえにはきいてない。


  一同,首を振る。仕方なく男は数歩前に出て、


セルジュ    あのー、私、電気屋ですけれども。
アイク あ!忘れてた。ヒーターを直しにきてもらってたんだ。直りました?
セルジュ ええ,ずいぶん前から直ってたんですが,なんか,ずっと取り込んでたみたいで,なかなかいいだせなくて。この人,なんですか?なんか私につらくあたりますね。
リッツ なんか,すいません。ちょっと見てのとおり取り込んでて。
セルジュ いやー、しかし、ちょっとの間に、ずいぶん,人が増えましたねぇ。パーティーかなんか?
ヴィックス (小声でリッツに)いつ来たんだよ?
リッツ 今朝、お前が出かけた後だ・・・。昨日呼んだから。
ロン (リッツに)それ、私がくる前?だよね?
リッツ 前です。
ロン (電気屋に)話し、聞いてました?
セルジュ いいえ、いいえ、いいえ。・・・全然。まったく・・・。


  電気屋の疑わしさは、その言葉ではなく、訛りによって強調されていた。


アイク 嘘くさいなぁ。
ヴィックス どうします?これ以上増えると、酸素がなくなりますよ。
ロン なんか、どうでもよくなってきた。いいや。帰っていいや。


  ロンは、電気屋を一瞥して、手を振って出て行けという合図をした。一同は反感のうめき声をあげた。


ロン (ひどくなげやりに)だって、直ったんでしょ。ヒーター。いいじゃない。帰ってもらえば。
アイク でも、でも、この人。絶対この状況を把握してるよ。全部聞いてたわけじゃん。
ロン 良いよ。良いよ。
ミク えー、不公平!私より前からいたのよ。この人がいいなら。私もいいでしょ!
ロン だめだ!この人は特別。
ミク 何が特別なのよ。


  一同がガヤガヤ喋りはじめた。ついにロンは彼らに静かに銃を向けた。


ロン うっさい!もう、うっさい!


ヴィックス 「この電気屋は、ロンが銃を抜いてもひどく驚いたようには見えませんでした。それはとりもなおさず、この状況を把握しているという証拠です。全く状況を知らず、ロンの正体を知らない人なら、もっと狼狽するはずです。例えば、彼女のように。」
フシコ2 キャー!・・・あなた・・・そんな・・・キャー!・・・あなた・・・そんな・・・(まるで天地がひっくりかえったかのような慌てぶり)
ヴィックス   (ちょっと笑って)落ち着いて下さい。えーと、おもちゃですから。
フシコ2 おもちゃ?なんだ。脅かさないでよ。
ヴィックス と、とにかく、あなたの話だ。電気屋さん。ご苦労さまでした。


  ヴィックスが電気屋に頭を下げ、玄関へと案内した。


ロン さて、話を戻そう。そこの女。改めて聞こう、女、お前は誰だ?何の用があって、写真を撮った?場合によっては、女と言えど・・・
セルジュ あのー。


  訛りのある声が、ロンの台詞を遮った。ロンが目を向けると、玄関から電気屋が顔をだしている。


リッツ まだ、いたんですか?


  リッツが、ひどい事を言った。元はと言えば彼が呼んだから修理に来たのであって、電気屋は何も悪い事をしていない。ロンも邪魔され怒りで、肩を震わせていた。電気屋を呼ぶ冷たい声がロンの唇を通過し、辺りに怒りの波紋を広げた。


ロン 電気屋。
セルジュ セルジュです。


  どう考えてもセルジュには見えない電気屋がそう答えた。


ロン セルジュ?お前が?お前、東洋人だろ?どう見ても。
セルジュ ええ、セルジュ。セルジュ・大前頭です。
ロン (片眉が上がった)電気屋。
セルジュ セルジュです。
ロン 電気屋。
セルジュ セルジュです。
アイク ロン 電・・・
セルジュ セルジュです。
ロン 分かった。セ・・・セルジュ。
リッツ それで、なんなんですか?電気屋のセルジュさん?ご用件は?
セルジュ あ、お金です。修理代。
リッツ ええ。そういうのは、管理人に言って下さいよ。ヒーターの故障は、確か、ビルメンテナンスでしょ?
セルジュ しかしですね・・・(端切れの悪い声を出した)。
ロン 俺が払う!いくらだ。
リッツ いやいや、そういうわけには行きませんよ。
セルジュ 2、400ディスクールですが・・・
ミク そんなに?
セルジュ いや、確かに、ヒーターの故障はビルメンテナンスなので、管理者請求にする事もできるんですが、これは、違うでしょ?これは、どうみても故意の破損だから、お金を頂かないと・・・。
ヴィックス 何の話ですか?
セルジュ どうせ、修理するんでしょ?またあとで、直しに来るのもアレですし、今一遍に直してしまった方が良いですよ。あとでまた来ると、出張費も2回分かかってしまうし。今回直してしまえば、出張費は管理者持ちになりますよ。
ヴィックス つまり?ヒーターと?
セルジュ 電話です。
ロン ・・・直せるの?
セルジュ 電気屋ですよ。ちょちょいのちょちょいですよ。
ロン ・・・電話・・・直していってもらおうか。セルジュさんに。ね。

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