SCENE 7 | 国立覚醒医療院 |
| 彦坂が、小野里に呼び出されている様子。
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小野里 | この《国立覚醒医療院》が、通常の病院と特に異なる点は?
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彦坂 | 来院患者がいない事かな、いや、です。
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小野里 | つまり?
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彦坂 | 歩けたり、話せたりする患者は、来ません。
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小野里 | (苛立って)だから?
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彦坂 | (小野里の苛立ちに応えて)通常の医者と違って、わめき立てたり、すすり泣いたり、激昂したりする招かれざるクランケたちと、カルテを漂流して廻るようなナンセンスな会話に神経をすり減らす必要がありません。
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小野里 | (嘲笑して)お前にすり減るような神経があればこうして呼び出す必要はないんだよ。いいか、彦坂。お前の言った事は決して間違ってはいない。要するに、俺たちは、生きた患者との対話に慣れていない。そんな俺たちが、必要以上に、患者と接触をするのは、むしろ、害になるかもしれない。(小野里は、本心では怖がっているのだろう)
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彦坂 | そうでしょうか?
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小野里 | この医療院にいるのは、眠れる難民たちだ。家族や知人の所在も不明だ。相手は何時果てるともなく大量に存在する冬眠患者で、彼らは、普通、覚醒すると同時に治っているから、治療方法に付いても軽い説明で済む。それ以外の事は元永のような覚醒カウンセラーが引き受けてくれる。そうだろう?
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彦坂 | はあ。つまり、我々は、肉体のメンテナンスだけをすれば良いと?
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小野里 | そうは言わないが・・・
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彦坂 | だめになったパーツの交換だけをしていれば、良いと?
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小野里 | まあ、待て、彦坂。俺たちは修理屋じゃない。俺たちは、医者だ。だが・・・
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彦坂 | (嫌味に)そうでしょうね。修理屋の給料はもっと安い。
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小野里 | 誤解するな、俺にだって・・・いや、呼び出して悪かった・・・。仕事に戻ってくれ。
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| 彦坂、一礼して退場。入れ代わりに、元永、現れる。
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元永 | どうしたの?彦坂君。落ち込んでたわよ。
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小野里 | 覚醒後の患者にあまり、入れあげるな、と言ってやろうと思ったんだが・・・。
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元永 | 灯里さんの事ね。
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小野里 | だが、俺に情熱がないだけなのかもしれない。なんだかんだ言って、俺は自分を修理屋だと思いたいのかもしれん・・・。
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元永 | 気にしすぎよ。
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小野里 | 彼らの幸せについて考えた事は?何十年も人知れず眠って、ある日、起こされる。知らない世界でね。それが、医療の与える幸福なのかな。
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元永 | あなたもカウンセリングが必要なの。安くしとくわよ。
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小野里 | (自嘲して)修理屋や機械工どころじゃない。ある日、いきなり、ある人間を世界に投げ出すんだ。無作為に、なんの了解もなく・・・。
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元永 | 神様みたい?
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小野里 | (笑って)そうだな、悪魔でもこんな残酷な事はしないと思うよ。
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元永 | あなたは、そうね。まだ、あの事を気に病んでいる。でも、本当は、もう立ち直っているのに、自分を信じ切れていない。
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小野里 | ・・・。
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元永 | でもあなたは、責任を果たしていると思うわ。あなたが眠らせたわけでもない人たちを、ちゃんと目覚めさせている。当時の人間たちは、未来の私たちに対して何一つ、有意義な資源も残さなかったくせに、冷凍睡眠患者という義務を押し付けてきた。負の遺産ばっかりじゃない。
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小野里 | いつの時代もそうかもな。
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元永 | バイテク、ナノテク、ジェノミックスにプロテオミックス。21世紀は医学のコペルニクス的転換期だった。ほとんどの病気が治療できるようになった。にもかかわらず、どうして、人々は、あんなに熱狂的に睡眠治療を選んだの?人工冬眠業界のバブル的高騰。軽視された生命倫理。未来の世界を良くする努力もしないくせに、そこに行きたがるお粗末なユートピア願望。そして、非合法の組織により欠陥商品と化した睡眠。騒ぎがおさまってみると、30万人が、文字どおり死の眠りについていた。
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小野里 | 怒っているのかい?
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元永 | 憐れんでいるのよ。でも、ここの患者たちも、あなたたちが覚醒させていかなければ、そのまま死んでいくのよ。陸に上がれず、ボートの中で死んでいく難民たちのようにね。(語気を強める)だから・・・
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小野里 | 自分を低く見る必要はない?
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元永 | 励みになった?
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小野里 | 幾分ね。
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元永 | 丁度、ランチ一回分のカウンセリングよ。
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小野里 | わかった。その前に、彼女のカウンセリングを手伝って欲しいんだ。どうも、私は嫌われているらしいよ。
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元永 | (呟く)見る目がないのね。眼科医でもそれは、治せないか。
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SCENE 8 | トウ馬のマンション |
| 灯里がトウ馬のマンションを訪れている。
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トウ馬 | (灯里にプレゼントしたサングラスを弄びながら)ふーん。お友達がコレに興味を持っているのね。
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灯里 | そう、そうなの。詮索好きの友だちで、困るのよ〜。
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トウ馬 | ふーん。これ、JBがくれたんだ、君の目の事を話したら、これを使えって。
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灯里 | JBって、前に言ってた一緒に住んでるお友達?
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トウ馬 | そ。
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| 灯里は、ふと、周囲を見回すが、この部屋に全く、同居人の存在がない様子に気付く。
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灯里 | ここに一緒に住んでるの?
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トウ馬 | う、うん
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| 時折、部屋の奥にあるコンピューターのような物が放つ赤い光りが灯里の精神をイラつかせる。灯里は、どうしても、誰かが一緒に住んでいるとは思えない。
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灯里 | あのドアは?トイレ?
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トウ馬 | そう。行きたいの?
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灯里 | え?いえ、大丈夫。あのドアは?
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トウ馬 | 僕の寝室。行きたい?
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灯里 | やだ。・・・まだいい。他には・・・ねえ。
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トウ馬 | 何?
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灯里 | そのJBって人、どこに住んでるの?同じ部屋で寝てる?
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トウ馬 | まさか。
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灯里 | でも、彼は、どこにいるの?ほら、わたし、お礼をいわなきゃいけないし。
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トウ馬 | おかしいな、さっきまで、いたんだけど・・・
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灯里 | え?
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| その時、赤い光線が先程より強く光る。
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トウ馬 | あ、来たよ。JB。灯里ちゃん。
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灯里 | JB?
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トウ馬 | (JBに)どうして?なんで、怒ってるの?友だちを部屋に呼んだだけじゃないか?
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灯里 | トウ馬、大丈夫?
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トウ馬 | (JBに)悪い事をしたなら、謝るよ!
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灯里 | 何言ってるの・・・・ねえ、トウ馬、誰と話しているの?
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| トウ馬はJBと会話をしているらしいが、その部屋には誰もいない。
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トウ馬 | (JBに)JBが、会わせたんだろ?僕と・・・あ!
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| その時、さらに強い光が放たれる。トウ馬は、突然、頭を押さえて、苦しむ。
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トウ馬 | (JBに)JB。待って・・・・待って・・・・いか・・・・ないで・・・
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| トウ馬、眠気に襲われたように気を失う。
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灯里 | トウ馬!どうしたの。トウ馬!!どうしよう?
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| 灯里は判断に困って、携帯を取り出す。
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灯里 | 一昭、ごめん(助けて)
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SCENE 9 | バー“ムーニン” |
| 開店前の“ムーニン”に、一昭と灯里が、トウ馬を運び込んだ後。トウ馬は、ソファーに寝かされている。
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一昭 | 病院に運ばなくて良いの?
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灯里 | ごめん。わたし、どうしよう・・・そうした方が良い?
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一昭 | 寝ているように見えるけど。
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灯里 | 動かさない方が良かったかな?でも、トウ馬の部屋、変な感じがして。きっと、いるのよ。
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一昭 | いないよ。幽霊なんて。
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灯里 | いるのよ。
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一昭 | 幻覚だろ?・・・薬は?
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灯里 | 薬って?
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一昭 | あの・・・いわゆるドラッグだよ。
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灯里 | やめてよ!わたし、そういうのやらないから。
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一昭 | お前がやらなくても、こいつは?
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灯里 | 多分・・・やってないと思う。
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一昭 | 少なくとも、お前の前では?
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| 灯里、咄嗟に、一昭に食ってかかる。
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一昭 | じゃ、お前、こいつの全てを知ってるのかよ?出身地は?親は?それから・・・
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| 灯里が、悲し気に、顔を背けるので、掴んでいた肩を揺さぶって。
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一昭 | それから!サングラスの正体は??
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灯里 | だから、言ったじゃない!JBにもらったんだって。
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一昭 | どうしてジェームス・ブラウンがサングラスを・・・
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灯里 | ジェームス・ブラウンじゃないって言ってるでしょ!だから・・・その幽霊よ。
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一昭 | じゃあ、これは、何か?霊界のお土産か。誰が作ったんだ?鬼太郎か?子なき爺か?砂かけばばあか?
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灯里 | (泣き声で)日本の妖怪だなんて、言ってない!!
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| マスター、現れて
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マスター | 何?なんの話し?水木しげる?
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灯里 | 限定しないで!!
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一昭 | 灯里、落ち着いて。マスター、ごめん。ちょっと場所借りてる。
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マスター | 別に良いけど、何?寝てるの?
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灯里 | マスター、ごめんね。私の知り合いなんだけど、ちょっと気分が悪いみたいで。
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マスター | ほんと?平気?
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灯里 | ちょっと、休めば、大丈夫だと思う。
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マスター | あ!灯里ちゃんの彼?
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| 一昭、いきなり立ち上がる。
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マスター | ごめん。あれ、でもどっかで・・・。
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一昭 | マスター、水。
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マスター | (慌てて)水ね。
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一昭 | (灯里に小声で)幻聴、幻覚、突然の混乱、ブラックアウト・・・ドラッグの症状だよ。客観的に考えろよ。そうだろ?
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灯里 | でも・・・。
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一昭 | じゃあ、JBってのは、透明人間で、こいつの側にいるのか?それとも、灯里の言うように、昔死んだダチかなんかで、幽霊になってこいつにとりついてるのか?一番、納得の行く説明は、どれだよ!
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灯里 | 一昭の言う事、よく分かる。でも、私、分かるの、トウ馬の事。変でも不審でもないの、理由なんてないけど、この人、私に似てるの、とても、近い感じがするのよ。昔から、知っていたみたいに。
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| マスター、水を持って来る。
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マスター | いいな。恋は盲目ですね。
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一昭 | マスター、話の全体を掴んでから言ってよ。
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マスター | ごめーん。はい。これ。(水を渡す)
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一昭 | (一息に飲む)
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| 間。
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マスター | あ、あのさ・・・、この彼、どっかで見た事あるなって思ってたんだけど・・・
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一昭 | あるでしょ!この間の灯里の誕生日の日に、そこに座ってたんだから。
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マスター | いや、そう。そうなんだよ。僕が、入り口の看板を片付けてる時に、この彼に聞かれたんだよ。お店やってます?って。
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一昭 | そうだよ。そう言えば、どうして、うちわだけのパーティーに部外者が入って来たんだ?マスターが入れたんすか?
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マスター | うん。だから、今日は、うちわだけの誕生日パーティーだって言ったんだよ。そしたら、その誕生日の人の知り合いだって言うから・・・。
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灯里 | 私の知り合いだって言ったの?
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マスター | 言ったよ。だから、入れたんだ。
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一昭 | 偶然、知り合ったって言ったよな?
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灯里 | 鳴美が、連れて来たのよ。
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一昭 | そんな事は、どうでも良いよ。どうして、こいつは、お前の事を知ってるんだ?いや、知っていたって、構わないけど、どうして、知っていないような振りをして、お前に近付いたんだ?
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| 一昭は、嫌悪感をもってトウ馬を眺める。
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一昭 | 起こして聞くか?
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灯里 | やめて。お願い!
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一昭 | そうだな。こいつが、正直に答えるとも思えないな。
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灯里 | そういう言い方・・・
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一昭 | 眠ってる間に聞き出すか。
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灯里 | どうやって?
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マスター | 催眠療法だよ。
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一昭 | マスター、さり気なく、会話に入ってこないでよ!
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灯里 | (冗談でしょという風に)催眠療法なんて、だめよ!本人の承諾無しにそんな事できない!
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一昭 | ・・・分かってるよ。冗談だよ。
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灯里 | (呟く)私、一昭が、そうやって、暴走する所が・・・。
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一昭 | 暴走!誰のために(やってると思ってるんだ)・・・いや、いいよ。ちょっと様子を見よう。
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マスター | 灯里ちゃん。それ、例のサングラス?
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灯里 | そう。トウ馬がくれたスーパーサングラスよ。
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一昭 | 触らない方がいいですよ。爆発するかもしれない。
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灯里 | 一昭。
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マスター | ちょっと、見せてもらって良いかな? |
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SCENE 10 | 国立覚醒医療院 |
| 小野里と彦坂の会話。
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彦坂 | TVを観ていたようなものですか?
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小野里 | そう。実際の風景ではなくてね。
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彦坂 | そうか、そのサングラスの副作用で、彼女は・・・それが実験?
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小野里 | いや、違うだろう。TVと同じ程度の危険性しかないと思う。もっとも、目医者から言わせれば、TVも十分危険だがな。
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彦坂 | それより、小野里先生、僕が気になるのは、彼女が、涙を流すのは、悲しいからじゃないって奴ですよ。ただの反応だって言うんですよ。
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小野里 | また、勝手に話をしているのか?
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彦坂 | 涙が出るだけで、悲しい訳じゃないって言うでしょ。確かに、悲しくて泣いてるって感じじゃないですよね。ただ、蛇口を捻ったら、水が流れましたみたいな。
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小野里 | 悲しくなくたって、涙は出るだろ?何年、眼科医をやってるんだ!
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彦坂 | (自分に惚れ込むように)でも、ちょっと、そう微妙に、悲しそうにも見えるんですよ。僕にはねぇ。
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小野里 | (意に介さず)どっちなんだね?
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彦坂 | どうすれば、良いでしょう?なんとかして、彼女を励ましてあげたい。
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小野里 | カウンセリングは、元永に任せておいた方が良いぞ。
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彦坂 | 悲しくないという瞳の奥に、ほのかな悲しさが漂う。悲しいのか?はたまた、悲しくないのか?
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小野里 | 病院に詩人はいらんぞ。悲しいか、悲しくないかは、眼科とは関係ない。もっと科学的に物事を考えろ!
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彦坂 | どうやって?涙の成分分析でもしてみます?
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小野里 | したさ。細菌やウイルスはなかった。
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彦坂 | 確かに・・・そうだ。ホルモンは?
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小野里 | あ?食べたいのか?
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彦坂 | 違いますよ。ACTH 。
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小野里 | ACTH?副腎皮質刺激ホルモンか。
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彦坂 | そうです。確か、悲しい時の涙には、ACTHが多量に含まれていると。脳に過剰なストレスがかかると、脳内でACTHが作られる。これが、そのまま脳内に残ると、体機能を余計に緊張させてしまい機能不全の原因になる。だから、ストレスなどで悲しい時は、涙が出て、ACTHを排出しようとします。
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小野里 | ストレスで涙が出るメカニズムだな!その線は考えていなかった。そうだ!いいぞ、彦坂。成分を調べてみろ!
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彦坂 | 分かりました。は、はい! |
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SCENE 11 | バー“ムーニン” |
| SCENE 9の続き。マスターが、灯里のサングラスを調べている。傍らに一昭が座っている。
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マスター | ふーん。構造上は、普通のサングラスに見えるね。これ。ちょっとレンズが分厚いか・・・。それに、なんていうの?ほら、ヤクザの車みたいな・・・
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一昭 | ブラックシールドね。マスター、詳しくないなら、見なくても・・・
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マスター | だけど、こんなに暗いんじゃ、見えないんじゃないかな?
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灯里 | はっきり、見えるよ。市販のサングラスよりも。
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マスター | 本当?どれ?
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| マスター、サングラスをかけてみる。
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マスター | ほら、真っ暗じゃ・・・あ!見えた。いや、見えて来たぞ。
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| 周囲を見回したり、サングラスの前に手をかざしてみたりする。
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マスター | そうか・・・なるほどね。おそらく、これは、あれだ。
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一昭 | なに?
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マスター | 発想の転換ですよ。このサングラスは実は、サングラスではない。
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一昭 | マスター、もう良いよ。
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マスター | サングラスは、灯里ちゃんの目に入る太陽光線をできるだけ遮断しようとする。これは、完全に遮断している。
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一昭 | それじゃ、真っ暗じゃないか。
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マスター | そう、真っ暗だよ。何も見えない。だから、映像で見せているんだ。
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一昭 | 映像?
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マスター | 1990年代から、アメリカ陸軍が研究していた新しい戦闘服があるんだ。
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一昭 | はあ?
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マスター | つまりカメラと受像機を複合的に持つ素材だ。これを使って服を作れば、背中の部分が自分の背景の映像を撮影し、正面の生地が、それを映す。つまり、背景に溶け込んで見える。
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灯里 | それが・・・そのサングラスに?
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マスター | おそらくね。つまり、この表面がすべてカメラで、私は、サングラスの裏面に受像された立体的な映像を見ていたわけだ。いわば、ヴァーチャルなんだな。
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灯里 | TVを観ているようなものって事?
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マスター | たぶん。
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灯里 | だけど、どうして、そんな軍が造るような物を、トウ馬が持っているの?っていうか、マスターどうして、そんなこと知ってるの?
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マスター | え?いや、思い出せないけど、いつかテレビで観たことがあるんだ。『なるほどザワールド』かなんかで。
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灯里 | ふるっ。
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一昭 | でも、変だ。灯里の目が、なぜ、実際の太陽には反応し、映像内の太陽には反応しないって、どうして分かるんだ。
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灯里 | はあ、どういうこと?
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一昭 | だって、そうだろ?このサングラスが、灯里の病気に効果があるって事は、つまり、これを作った人間が、灯里の目の病気に付いて熟知している可能性があるって事だろ?そうでしょ?マスター。
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マスター | いや、分からないけどね。
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灯里 | それが、JBかしら?
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一昭 | そいつなら、灯里の病気を治せるかもしれない。(興奮して)そうだよな?おい!トウ馬、JBってやつに合わせてくれ!おい!
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灯里 | ちょっと。やめて。
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一昭 | トウ馬、頼むよ。灯里の病気を治せるかもしれないんだ!
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| 灯里、驚いて一昭を見つめる。 |
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