声楽・合唱曲
合唱のための《アヴェ・レジーナ》1997年
【編成】女声合唱
合唱のための《アヴェ・レジーナ》MP34:08/1.2MB
*曲を聴きたい時は「MP3」をクリックしてね。MP3の演奏には歌は入っていません。メロディ部を他の楽器に置き換えて演奏されています。本来は歌詞があります。
 マザー・テレサの赴報を受けて1997年9月9〜11日にかけて作曲した合唱曲です。推奨は女声合唱ですが、もちろんその他でも、かまいません。ただし、混声などにする場合は、若干、手を加えた方が良いと思います(いずれにしても 声域が広すぎるので改編の必要がありそうです)。テクストは、中世のラテン語の典礼歌からとりました。歌詞と対訳は、別紙をみてください。楽譜を見ていただくと分かるのですがこの曲には拍子と小節線がありません。最初は読みづらいかもしれませんが、8分音符が一単位になっているので、数えていけば、すぐに慣れると思います。
 前半の聖歌風の部分(Lento religioso「敬虔に」)は、応答的な歌唱と、ポリフォニックなオルガヌム的部分からなっています。厳密な意味では違いますが、応答的な歌唱は、交唱(アンティーフォナ)を前提に作りました。作曲者にしては、指示記号が比較的多いのですが、抽象的な観念を超えないものがほとんどです。viva voceは「澄んだ声で」という意味ですが、ノン・ヴィブラートだと思ってください。この聖歌風の部分が一段落すると、教会旋法から脱却して三声のハーモニーによる合唱になり、変ロ長調の明るい和声進行が、天上的イメージを喚起させます(grandioso「壮大さ」)。母性の持つ包容力や慈悲を歌い上げる高らかなハーモニーです。このハーモニーは、高音から始まって、一オクターブにわたって、だんだんと地上に向かって降りてきます。そのまま変ロ長調にパラフレーズされた冒頭の旋律が現われます。(carezzando「優しくなでるように」)そして、その旋律がハーモナイズされながら広がっていきます(con amore「愛情を持って」con passione「情熱をもって」)そこで、音楽は突然、静謐さを取り戻し、天に消え入るように小さくなっていきます(pietoso「哀れみをもって」perdendosi「消え去るように」)この部分の解釈は演奏者にお任せします。極めて重要な部分です。最後に再び、聖歌のフレーズが現われますが、最終的にはにごった残響のなかから長三度の和音が救い出され、終わります。
テクスト Salve Regina,mater miseri cordiae:Vita,dulcedo,et spes nostra,salve.
Ad te clamamus,exsules,filii Hevae.
Ad te suspiramus,gementes et flentes in hae lacrimarum valle.
Eia ergo,Advocata nostra,illos tuos misericordes oculos ad nos converte.
Et Jesum,benedictum ventris tui,nobis post hoe exsilium ostende.
O clemens: O pia: O dulcis Virgo Maria. Hozanna!
Salve Regina,Salve Regina.
(イタリックの部分は作曲者の追加)
ああ女王よ、恵みの母、私たちの命、やさしさ、希望である女よ!私たち追放されたエーヴァの子らは貴女に呼びかけます。私たちはこの涙の谷間で呻きつつ涙しつつ貴方にため息を送ります。私たちを擁護して下さる方よ、どうか私たちに憐れみの目をお向けください。そして私たちが追放されたあと、あなたのお腹の祝福された結実であるイェースス様を私たちにお示しください。おお慈悲深く、徳高く、やさしいマリア様よ。ホザンナ(万才)!ああ女王よ、ああ女王よ。
《マイ・レクイエム》1997年〜
【編成】混声合唱・独唱・ピアノ
イントロイトゥス<入祭唱>「祈りを込めて」
キリエ<あわれみの賛歌>「天上を思って」
グラドゥアーレ<昇階唱>
トラクトゥス<詠唱>
セクエンツィア<続唱>
オッフェルトリウム<奉納唱> 「願いに満ちて」
サンクトゥス「情を込めてやさしく」
アニュス・デイ<平和の賛歌>「牧歌風に」
コンムニオ<聖体拝領唱>
10レスポンソリウム<リベラメ>
 ラテン語のテクストに作曲したピアノと合唱、独唱のための曲。全体的に優しいメロディが多く、レクイエムといった暗い雰囲気の曲はほとんどありません。特にオッフェルトリウムは沖縄的な旋律を使用した美しい楽曲です。
女声合唱組曲《物質の将来》1999年
【編成】女声合唱・ピアノ
〈物質の将来〉
〈晩二つ〉MP32:05/614KB
〈質屋のショーウインドー〉
〈物質の将来(承前)〉
*曲を聴きたい時は「MP3」をクリックしてね。MP3の演奏には歌は入っていません。メロディ部を他の楽器に置き換えて演奏されています。本来は歌詞があります。
 稲垣足穂のテクストによるピアノと女声合唱のための組曲。
1.〈物質の将来〉(同名の詩の一部による)
ピアノと女声三部。「indeciso(はっきりしない)」変ホ長調。最初に提示される旋法的なユニゾンのモティーフと、その後の、コラール的な部分の繰り返しに基づいてできています。拍子は安定した部分と、変動的な部分からなりますが、これは、詩が韻律的にできていないせいもあります。
2.〈晩二つ〉(同名の詩による)
ピアノと女声三部。「delizioso(甘美に)」変ホ長調。甘美なメロディと常に転調する和声が特徴的です。いわゆる、「夜の音楽」という感じだと思います。一曲目と同じ調性ですが、前奏はホやハといったシャープの調性ですし、曲もホ長調と変ホ長調というように、近い調の間をうつろい歩きます。メロディはアリア的で、レチタティーヴォ的な一曲目と対比をなしています。
3.〈質屋のショーウインドー〉(同名の詩による)
ピアノと女性二部。「con tenerezza(優しく)」ヘ長調。ある程度、一番、二番というように、構成されていて、最も歌らしい(童謡のような)歌といえる曲です。単純な二部形式のテーマが歌われると、ピアノの伴奏を挟んで、展開的な部分に入ります。そして、最初のテーマが少し変奏されながら繰り返され終わります。複合三部形式。
4.〈物質の将来(承前)〉(同名の詩の一部による)
無伴奏女性三部。「animato(生き生きと)」嬰ヘ短調−イ長調。名前からも分かる通り、一曲目の続編のようなものにあたります。スケルッツォ的なAと、一曲目にも出たコラールの動機Bが、速いテンポで繰り返され、転調していきます。中間の最も、教会的な部分で、調性は、変ホ調という「懐かしい」調性を回復しますが、すぐに転調によって遠ざけられ、D.C.的に再び、嬰ヘ短調を経験しイ長調で曲を閉じます。
歌とピアノのための《SONG BOOK》1999〜2000年
【編成】声楽(最大二部)・ピアノ
三日月が転ぶ
山が傘をさす
誰もいない島で
蚤と蚤の夫婦
向こう川
薔薇と蛇
砂の記憶
★下のYouTube版では、歌詞とともに全曲通しでお聴きいただけます。

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 《SONG BOOK》は、歌とピアノのために書かれた歌曲集です。基本的に大学の英文学の講義で手にした英詩に曲をつけるという習作として始めました。作曲は1999年2月3日から開始し、7曲の予定で作曲を進めました。9月14日に6曲までを完成し、作業中だった7曲目を12月27日に破棄、6曲編成にしました。しかし2000年にはいって、1月22日から〈薔薇と蛇〉の作曲を始め、これを加えることにし、予定通り7曲編成の形になりました。完成は、2月3日。ちょうど、1年かかったことになります。しかし、詩の読み込みが浅く楽曲との調和がとれていない事が懸案でしたので、2016年頃から自作のテクストに置き換える形で改題したものです。
 元々、ブリテンの《金曜日の午後》の影響もあり、少年合唱を前提に作曲していますが、技術的レベルや作品の大きさが、子供たちでも歌える程度という発想に由来します。したがって、これらの作品は少年合唱に「ちょうど良い」作品というわけです。しかし、それは大人が歌うほどではない、ということではなく、一般の合唱団や声楽家にも、歌うに値するものにしたつもりです。それは、童謡が、「童」とつくのに、大人でも歌えるのと同じくらいの意味だと考えていただけると良いと思います。歌うことに重点をおいた作品なので、親しみやすいメロディを心がけています。  以下に、それぞれの曲の簡単な解説を付します。
1.三日月が転ぶ
 6/8拍子、ト長調、Andantino gentile。(1999年4月20日完成)  可愛らいい前奏が特徴的な全作中でも一番親しみやすい童話的なメロディを持っている作品。途中から二部に分かれますが、構成も単純です。元のテクストは、宮沢賢二 (1896-1933)の小説『鹿踊りのはじまり』のジョン・ベスター(John Bester)による英訳の抜粋です。このテクストが他の作品とそぐわなかった事も自作テクストに改題した大きな理由です。
2.山が傘をさす
 5/4拍子、変ホ長調、Allegro moderato capriccioso。(1999年2月8日に着手・完成)  非常に短い曲ながらも、5/4拍子の印象的なリズムにのったおもしろい楽曲です。元のテクストはエズラ・パウンド Ezra Pound(1885-1973)の「少女 A GIRL」。
3.誰もいない島で
 4/4 イ長調 Adagio sostenuto(1999年9月14日完成)  最初、あまりに安易なメロディのため破棄も考えたのですが、ピアノ伴奏がよく書けたので残した曲です。元のテクストはジョン・ダン John Donne(1573-1631)の有名な「島である人はいない NO MAN IS AN ISLAND」なので、自作テクストに島や鐘の要素が入りました。
4.蚤と蚤の夫婦
 4/4 ト長調 Allegro volante(1999年9月14日完成)  軽快で楽しい楽曲です。サビは変ホ長調の転調します。途中、ゆったりとした中間部があり、最後は駆け抜けていくような楽曲です。元のテクストはジョン・ダン John Donne(1573-1631)の「のみ THE FLEA」です。この詩は恋愛の詩なのですが、音楽は少年合唱向きに楽しくかわいいものにしました。結局、自作テクストでは「のみ」の要素は残し楽曲にあう夫婦の楽しい引越しの様子(後述するように本当は決して楽しくない)としました。
5.向こう川
 3/4 変ホ長調 Andante risoluto(1999年4月3日完成)  ゆるやかな三拍子で、ピアノの和声だけに支えられて、ゆるやかな旋律を歌う歌です。特に中間部の調整を揺蕩うようなフレーズが特徴です。元のテクストのラングストン・ヒューズ Langston Hughes(1902-1967)の「ニグロは河について語る THE NEGRO SPEAKS OF RIVERS」に影響されて黒人霊歌風になっています。自作テクストも「川」で書きました。
6.薔薇と蛇
 3/4拍子、ホ短調、Moderato paventoso-Allegro con fuoco(2000年1月20日完成)  メロディは単純で二つの旋律の繰り返しだけです。ピアノがそこに虚ろな和声を足していきます。後半にテンポが上がりますがメロディは変わりません。最後の再び元のテンポに戻り何かを訴えかけるように終わります。元のテクストがウイリアム・ブレイク William Blake(1757-1827)の有名な「虎 THE TIGER」なので、神秘的で恐ろしく美しい楽曲を目指しました。自作テクストでは「虎」の出だし「虎よ 虎よ Tiger, tiger, 」につけた最初の旋律に「薔薇よ 薔薇よ」や「蛇よ 蛇よ」と呼応させました。
7.砂の記憶
 4/4 変イ長調 Moderato soave(1999年6月ごろ完成)  全曲の中で、最もシンプルな曲です。C音のオクターヴの刻印にのって、単純なメロディが歌われます。元のテクストはアルフレッド・テニスン Alfred, Lord Tennyson(1809-1892) 「ひび割れた壁に咲く花よ FLOWER IN THE CRANNIED WALL」です。
合唱組曲《放浪記》2003年
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