SPEAKER370 volume.04『MILANDA』(ミランダ)-18 Sections you recall on the shorless BEACH-


あらすじ
エピグラフ
私たちが死を悲しむ のは、死者をこの世でふたたび見ることができない悲しみというよりも、それをねがってはならないという悲 しみであろう。----トーマス・マン『魔の山』

この島は、苦しみを味わうことが許されない宇宙で ただ一つの場所で、ここでは、無気力な希望と底なしの倦怠を見分けることはできないのです。----ウンベル ト・エーコ『前日島』
Section1
 観客が劇場に入ると そこは昼のビーチである。波の音と共に1930年代の陽気なラテン・ミュージックが流れている。そのビーチの 一画にカトレアの花で飾られた木のやぐらがたっている。島の人々がそこを自由に歩き回っている。やがて夕暮 れになると島の人々が集まりその棒を囲み謎めいた動きや踊りのようなものを繰り広げる。
 フーナの声 が録音で流れる。この島の歴史について説明した後、「このビーチは、私たちのものではありませんが、私た ちにとって、とても大切なビーチです。もし、このビーチがなぜ大切なのかを忘れてしまったのなら、私たち と一緒に思い出しましょう。だって、ここは、島の人全員にとって、記念すべき、大切なビーチなのですから」 と付け加える。ビーチは夕暮れを向かえ夜が訪れ暗転。
Section2
 夜。波の音は遠い潮 騒へと変わる。イアン・ティーコの骨董品屋のビーチに面したテラス。特別外交官のエドワード・フィッシャー は、昨日購入した高価な置き時計を返品したいとイアンに訴える。妻のクレアが懐妊している事が分かりお金 が必要になったというのだ。確か購入後1週間なら返品が効くと書いたあったはずだと訴えるが、イアンは適 当な理由をつけては返品に応じず、しかも売り値の三分の一以下の値段で買い取ろうとまで言い出す。フィッ シャーはイアンにいいように騙された事を悟る。フィッシャーは返品を諦めイアン自分の非を認め、お詫びに とイアンをビーチの別荘に誘う。イアンは娘に話があるのでと辞退するが、結局フィッシャーの誘いに応じる。 イアンを砂浜に連れ出したフィッシャーはイアンに向かい置き時計を振り上げる。月の光が、フィッシャーの 手から滑り落ちた置き時計とその傍らに無惨な姿で倒れているイアン・ティーコを映し出す。
 フィッ シャーは妻のクレアと共にイアンがビーチで事故死をしたように工作する。しかしその途中でイアンが息を吹 き返したので、焦った2人は傍らの椰子の実で再びイアンを殴殺する。さらに岩場に死体を運ぶ途中イアンは 再び息を吹き返す。2人はイアンを絞殺し岩場から海に突き落とす。イアンは岩肌に叩き付けられながら漆黒 の海に落ちていった。「流されるかな?」「大丈夫よ悪魔の手招きがあるから」2人は一番最初の凶器である 置時計を手に別荘へ去って行く。波音。
Section3
 朝。ビーチ。朝特有 の泡立つような波の音。波打ち際でいつものようにサモン・ラトゥーンとツナ・アトリーがつまらない話をし ている。サモンが昨夜ビーチの女性のあえぎ声を聞いたので、 フィッシャー夫妻がビーチでHをしていたのだ と得意げに語る。
 女軍人ミカエラ・ヘリング大佐が何かを探している様子でビーチに歩いてくる。部下 のホーエル中尉も一緒だが彼はなんのために上官がビーチに来ているのか分からない。ただ「ここの潮の流れ は早いのかな?」と聞かれ、水深が深い所で入り江に沿って岬のほうへ急激に流れる「悪魔の手招き」という 潮がある事を教える。
 時は昨夜に遡行する。サモンとその祖父にしてただ一人の保護者であるエッブ・ ラトゥーン(通称、エビ爺さん)が口喧嘩をする声が聞こえる。軍人になることにエビ爺さんにひどく反対さ れ、サモンは夜風に当たるため家を飛び出した。サモンがビーチにつく頃、丁度フィッシャーとクレアが別荘 に戻って行った。そこにミカエラが現れる。彼女は人には秘密にしていたが夢遊病である。夢の中で血塗れの イアンとタンゴを踊りながらビーチまで徘徊してきてしまったらしい。我に帰ると彼女は大量の汗を拭いなが ら悪夢の無気味さに息を荒くしている。そこにサモンが通りかかる。女性の荒い息を確かに聞いたサモンは暗 いビーチに目を向けるが暗くて何も見えない。彼は「ランプ、ランプ」と言いながら飛んで家に帰った。
 人の気配に気付いたミカエラは岩影に隠れたが、そこで何か柔らかい物を踏んだ。それは先程夢の中で彼女 とタンゴを踊っていたイアンの変わり果てた姿だった。イアンが完全に死んでいる事を確認すると彼女は急い で自宅へ戻った。
 再び、昼のビーチ。「何を探しているのか教えてくれたら一緒に探しますよー!」 ホーエルの声でミカエラは我に帰った。ミカエラはあの後着替えてすぐに現場に戻ったがイアンの死体は消え ていた。明るくなってこうして捜索に来たが、やはり死体は見当たらない。潮に流されてしまったのかも。
 やる事がなくうろついているホーエルにツナが歩み寄る。ホーエルとツナは旧知の間柄だった。ツナはサモ ンのために軍人になる方法を聞く。そこにミカエラが近寄って来る。サモンが漁師の子(孫)と聞いて「悪魔 の手招き」に流されるとどうなるか質問する。サモンは西の岬に流れ着くと答える。
 ミカエラたちが岬 に行こうとすると、見るからに怪しい様子でクレアがやってくる。狭い島である、たいていの人間は人見知り だ。クレアはビーチに人が大勢いる事が気になっているようだ。挨拶が一段落すると岩場の方を気にしだした。
 さらにフーナ・プレットがツナを探してやって来る。つまりイアンの娘だ。ミカエラとクレアは同時に フーナに目を向けた。「ツナ。学校は?またサボリ?約束したでしょ。ちゃんと学校行くって!」世話女房の ようなフーナに辟易してツナは慌てて逃げていく。サモンは祖父であるエビ爺さんがフーナの養父イアンに貸 している物の件で用があると言っていた事を思い出し、イアンさんがお店にいるかどうか、フーナに訪ねる。 「お店にはいないけど。もうすぐここに来るはずよ。なぜなら私がここにいるからよ。」フーナの答えに、耳 を疑ったのはクレアとミカエラだ。そしてフーナの言葉通りイアン・ティーコが歩いて来た。傷一つない、まっ たく普通の様子で。クレアとミカエラは小さな悲鳴をあげると走り去った。ホーエルは慌てて上官を追う。
 喜劇のようにドタバタしたビーチに静けさが戻った。サモンは、うちの爺さんがイアンさんに置時計を貸し たと言っているとイアンに伝える。イアンは置き時計は頂いた物だと言い、エビ爺さんに確認してみると答え る。
 クレアからビーチでの怪事を聞いたフィッシャーが現れて独白。「とにかく、もう後戻りはできま せん。私はすぐにイアンをもう一度殺す計画をたてました。そして思えばここからこのビーチはどんどん思わ ぬ方向へ流されていきます。それこそ、まさに悪魔の手招きだったのではないでしょうか。」続いてクレアが 現れて、「この島が平和だった頃を覚えていますか?私たちは、この島の美しさと平和さにひかれて赴任して きたのです。島はずっと平和でした。一度だけハリケーンが来たような記憶がありますが、それさえも私たち やこのビーチの平和を打ち砕くことはできませんでした。私たちがこの島に赴任してきた年、それは1934年の ことでした。」2人の独白で時代は1934年に遡行する。
Section4
 1934年のある日。午 前中のビーチ。ミカエラが遠い海の向こうを見つめて立っている。親しい関係を築いていた上官から辺鄙な島 への転属命令を告げられた。上層部が決めたことだ、という上官に、閣下の奥様が決めた事では?と嫌みを言っ て退出し、そしてこの島へ来た。エリック・ホーエルと名乗る洗濯したての真っ白な軍服を着た若くまだ子供 のようなこざっぱりした男が現れ、副官に任命されたというので、その場で中尉に昇進させた。
 同じ ビーチに品のある男女が楽し気にやって来た。今度、赴任してきた特別外交官のエドワード・フィッシャー氏 とその妻だとホーエルが報告した。ビーチの端に建設中の別荘の下見に来ているのだと思うとホーエルは言う。 その言葉通り二人はビーチの端に消える。ミカエラも新しい副官を連れ本部に戻る。
 人のいなくなった ビーチに、イアンとエビ爺さんがやってくる。エビ爺さんの後ろにはサモンがついて来ている。今度イアンは 養女を迎える事になったが、その娘にあまり好かれていないと言う。プレット家の娘という言葉がイアンの口 から出ると、エビ爺さんも悲し気に表情を曇らせ押し黙った。サモンは後ろで聞いているが何の事かさっぱり 分からない。イアンはサモンに彼女フーナの友だちになって欲しいと頼み、2人はサモンをビーチに残し街へ 出かけた。
 この時、波の音に混じって不思議な声がサモンの耳に届いた。その声は自分をカニだ言う が、見当たらない。やがてサモンはそのカニを踏んでしまったらしく声はしなくなる。そこにクレアがやって 来た。「初めまして」と言うクレアにサモンは「本国の人?あっちでもカニはしゃべる?」と聞いてみた。 フィッシャーに呼ばれクレアは去る。
 サモンを呼ぶ声がする。悪友のツナだ。岬にがらくたが流れ着い ているとツナはいう。彼らはいつも西の岬に流れ着くガラクタを集めている。骨董商のイアンが買い取ってく れるのだ。安価だが良い小遣い稼ぎになる。ツナがサモンを連れて岬へ行こうとすると、砂浜に佇むフーナが 目に入った。ツナはサモンを一人で岬にいかせるとフーナの横に立った。フーナは最近、育ての乳母を亡くし た、しかも両親にも会った事がないという。ツナはフーナに慰めの言葉をかけ岬に向かう。一人になったフー ナは不思議な声を聞く。その声はカニだと名乗るがどこにも見当たらない。フーナもカニを踏んだらしく声は しなくなる。フーナは脅えて悲鳴まじりに走り去った。
 ツナとサモンが海水のしたたるガラクタをいく つか手に持って歩いて来る。そこにエビ爺さんがやって来たので二人は慌てて拾得物を隠す。エビ爺さんはサ モンを連れて立ち去る。ツナは安心して拾得物の物色を始める。綺麗な髪飾りがあったのでフーナにあげよう とポケットに忍ばせ、残りの物を抱いてイアンの店に向かって歩き出す。その時不思議な声が波の音に混じっ て聞えた「なんで、わしばかり、こんな目に・・・」が、ツナの耳には届かなかった。そればかりか、ツナが うっかり落としたガラクタが、その声の主を直撃したらしくかすかな悲鳴と共に声は止んだ。ツナは何かを落 とした事に気付いて立ち止まった。足下を見ると、置き時計(そう、あの置き時計)が砂に抱かれていた。秒 針の音がゆっくりと波の音を凌駕する。
Section5
 月夜のビーチ。フィッ シャー夫妻は、イアンを待ち伏せしてビーチで殴り殺す。殺害したつもりが生きていたと聞いて、再び殺害し たのだ。「あなた、脈、呼吸、瞳孔、それから、それから・・・」今度こそ完全な死を確認した。「念には念 を入れて、ちゃんと海に沈めるのよ」慣れとは恐ろしい。二人は着実に事をこなすと別荘へと引き上げていっ た。少ししてミカエラが現れ、水没したイアンの死体を発見する。遠くへ目をやると別荘の方へ歩いていく二 人の影が見える。
 翌朝。「本当ですか?」ホーエルが驚きの声をあげる。「私は嘘はつかないわ。確か に死体はここにあった。彼はこのビーチで何者かに殺されたのよ。死体はここに沈められて、ちゃんと死んで いた。なのにまた死体が消えてる」「また?」ホーエルに促されミカエラは全てを--夢遊病の事は除き--説明 する。一昨日の晩イアンに死体を発見したがすぐに消えてしまった事。その後生き返ったイアンを尾行してい た事。昨夜ちょっと目を離した隙にまた死んでいた事。そして今日「また」死体は消えている。そしてミカエ ラはイアンは何者かに殺害され、その犯人はフィッシャー夫妻だと断言する。ホーエルはその見解には異を唱 える。「潮に流されたんですよ。悪魔の手招きに」
 ホーエルの独白:「私は大佐がおかしくなられたの だと思いました。確かにこの島には死人が生き返ったという伝説がありました。しかし、そんなものはどこに でも転がってる類の話しです。しかし彼女の言っている事は正しかったのです。大佐はイアンが死なないとい うことに確信をもっていました。そしてイアン殺しの犯人を捕まえることよりも、イアンが死なない理由を付 き止めることが、自分にとってより利益に繋がると確信していたのです」
Section6
 午後。ビーチに面し たイアンの店のテラス。クレアが鼻歌を歌いながらビーチにやってくるが、そこでツナとイアンがトランプゲー ムをしているのを見て鼻歌を悶絶に変え今来た道を走り去った。ゲームを観戦していたサモンが驚いてクレア を見る。イアンは例のエビ爺さんの置き時計がどうしても見当たらないという。「でも、イアンさんがもらっ た物なんでしょ?」「いや、そう思ってたんだがお爺さんは貸してるだけだというんだよ。ま、お爺さんには、 もう謝ったんだがね」そこにミカエラの命令でホーエルがやって来てイアンに捜査協力を頼みたいと伝える。 ホーエルはイアンを見て疑念を払拭する。こんな元気な人が殺されたなんて。イアンはホーエルに連れ添われ 去って行く。そこにフィッシャーが現れイアンを見てひどく狼狽する。声もでないフィッシャーにサモンが近 寄る。「フィッシャーさん!夜で誰も見てないとはいえ、ビーチであんなことしちゃいけませんよ」フィッ シャーは、顔色を失い別荘へと去っていく。
Section7
 翌朝。深刻な面持ち でフィッシャーとクレアがやって来る。困った事にあの現場をサモンに見られていたらしいのだ。そこに丁度 サモンがやって来て、サモンの見た現場というのがフィッシャー夫妻のビーチでのセックスであると判明する (実際にそのような事はなく、サモンが聞いたあえぎ声はミカエラのものだが)。フィッシャーは安心してサ モンに話をあわせる。
 そこにイアンとエビ爺さんが話しながらやってくる。養女のフーナがエビ爺さん の家に入り浸っていて、イアンはすっかり嫌われたらしいと笑う。フィッシャーには最近ある確信がある。「イ アンさん。ちょっとお話ししませんか?」それを確かめるためイアンに話しかけた。エビ爺さんは大事な話し 邪魔してはいけないとサモンを連れて去る。フィッシャーは遠回しにいろいろ質問し結論をだした。イアンは 殺しても死なないが、殺された事も覚えていないらしい。そしてフィッシャーに置時計を売った事も記憶して いないようだ。クレアはもう殺す必要がないと喜ぶが、フィッシャーは笑わない。「手形がある。置き時計を 買った手形を見れば、不審に思うかもしれない。」
Section8
 翌日、昼前。波打ち 際にキリンのお面が流れ着いている。ホーエルが現れ「ビーチにはいろんなものが流れつきます」と言った後、 「ビーチ、ビチビチ、ビチビチウンコ、あなたの父ちゃんサノヴァ・ビーチ!」という歌を歌う。暗転。
 同日、午後。フーナが現れ独白。「この日の朝、ビーチからいっそうの船が沖へ出て、午後になって、ビー チに戻ってきました」フーナ急に慌てた様子で「サモン、大変。お爺さんが。お爺さんが。海で大怪我をして」 ツナが現れ独白。「流れついたその船にはボロボロになった老人がのっていた。いい年なのに漁に出て、怪我 をして、なんとか戻ってきたけど、もうダメだった。フーナが、かわいそうだった。だって本当のお爺さんの ように彼を慕っていたから。今夜彼の葬式がある。眠れる魂を海に還すのだ。けれど、ここで話しを少し、戻 さなくてはならない。それは、いまから数時間ほど前のことだ。」
Section9
 時間が遡行する。今 までの幾つかのシーンが再現される(舞台上で演じられていない部分も)。そしてホーエルの「ビーチ、ビチ ビチ、ビチビチウンコ、あなたの父ちゃんサノヴァ・ビーチ!」という歌の部分に戻る。歌い終わったホーエ ルが去ると、波打ち際のキリンのお面が動き出す。このお面をかぶった人物はふらふらと海岸を歩き回りやが てお面をはずす。「助かったのか。俺は助かったのか。やった。やったー。これが、うきわになったのか。偶 然かぶったのが幸いした。無人島・・・じゃなさそうだな」男は顔を臥せ歩いて来たクレアに気がつく。男は サー・ディーンと名乗り、クルーザーが難破してここに流れついたという。クレアはほとんど反応をしないの で、他の島の人できれば警察の人に会いたいとディーンは訴える。「島の人なら来ますよ。もうすぐここに集 まります」聞けば葬式が始まるという。
Section10
 夕方。サモン、ツ ナ、フィッシャー、ホーエルが担架のようなものにのせたエビ爺さんの死体を運んでくる。フーナは死体に泣 きすがり、クレアはフィッシャーの側にいる。ミカエラは少し離れてついてくる。エビ爺さんとあまり面識が ないミカエラがいるのは、フィッシャー夫妻を見張るためだ。担架が砂浜に置かれる。ディーンは面喰らって その様子を見ている。ここから全員の会話が交錯しながら話しが進む。サモンは最近爺さんが気にしていた置 時計を一緒に海に流してやりたかったとフーナに話す。フーナはイアンが無くしたなんて嘘をついて隠してい るかもしれないと時計の特徴を聞く。サモンがエビ爺さんから聞いた特徴を話すと、フーナはそれは私とツナ でエビ爺さんにあげた物だと言い、倉庫から探してみると去る。ミカエラはフィッシャーの別荘が葬式の間解 放されているのを良い事にホーエルに密偵させる。ディーンはミカエラにこの島で商売をしたいと持ちかける がミカエラはあまり聞いていない。ディーンは葬式にはひとかどの知識があるらしく、海に流す方法は古いの で火葬にした方が良いとサモンに勧めるが、傍らのツナにそう言う話しは葬式が終わってからにしてやれと注 意される。サモンはツナから以前エビ爺さんに置時計をあげたという事を聞き出す。フーナが倉庫にはなかっ たと言って戻って来る。その時、大きなくしゃみと共に、エビ爺さんが生き返った。
 こうして生き返っ た人間は二人目になった。イアン・ティーコとエビ爺さん。しかもエビ爺さんの死は誰もが認めるところだっ た。そして衆目の中での復活劇。ミカエラは、この復活を契機にますます不死の謎の解明に全力を傾け始めた。 そしてイアンとエビ爺さんに一つの共通点を見つけた。置時計である。ホーエルの話からフィッシャーの別荘 に置時計がある事が分かった。島の人々にさりげなく聞き込みをした。イアンがなくしたと言っていた置時計 がフィッシャー家にある。その置時計はエビ爺さんからイアンに譲られた、もしくは貸された物。この置時計 に秘密があるとしたら?エビ爺さんに置時計を譲ったのはツナという少年。ミカエラの脳は冷静に計算を続け た。「もう一つ確信が欲しいところだな。一度フィッシャー夫妻に会っておくか。協力してもらうことになり そうだ。」暗転。
 そして暗転中。フィッシャーの声「ツナくん。ほんの一時のことだ。許してくれ」、 ツナの声「何を?」、そして銃声、驚いた鳥たちが羽ばたく音、静寂。
Section11
 数日後、昼のビー チ。ミカエラはビーチにフィッシャー夫妻を呼び出す。ミカエラはフィッシャー夫妻を秘密を全て暴きたてる。 置時計を買った事、夫妻がイアンを(何度か)殺した事、しかしイアンは生き返り手形が今で彼の手元にある 事。驚くフィッシャーにミカエラはある取引きを提案する。それを実行すれば手形を秘密裏に取り戻すという のだ。「ツナという少年を知ってますね。彼を、撃って、殺してみてください」 彼女はフィッシャーに銃を渡 した。ホーエルはこの件に猛反対した。しかたなくミカエラは計画の意味を教える。おそらくツナは死なない というのだ。
Section12
 夕刻、ビーチの傍 らでエビ爺さんとディーンが話している。クルーザーが壊れ遠くにこの島が見えたので泳いで来たが、途中で 気を失い気がつくとビーチに倒れていたというディーンにエビ爺さんは「見えましたか」と呟く。そこに思い つめた表情のフィッシャーが通りかかる。ディーンのあいさつにも気がつかず足早に通り過ぎる。ディーンは 商売をしに来たので新しい島を見つけて幸運だと語る。売り物はと聞くエビ爺さんに彼は「文化」だと答える。 エビ爺さんは、自分の葬儀の際、遺体を火葬にしようと勧めた事もその一環かと笑いながら尋ねる。ディーン はエビ爺さんが仮死状態だった事を説明する。しかし火葬にされていたら本当に死んでいたかもしれないと反 論される。「いいえ、死はもちろん手順を踏まえて効率的に確認します。そしてこの方法こそが、死人帰りと いった恐怖の伝説を駆逐できるのです。それに衛生的です」と笑うディ−ンにエビ爺さんは忠告する。「まあ この島にやってきたということは、何か死について学ぶ必要があるからなんじゃろう。ただ一つ忠告しておく、 この島で早まったことをしてはならん。その死の確認とやらを忘れぬようにな。ただでさえ、よく人が生き返 る島じゃ」「ほら、それですよ。死体があったりするから生き返るような気がしたり、やり直せるような気に なるんです」ディーンは、故郷フロリダのケープ・カナベラルの話しをする。「分かるでしょ?あれを見たん ですよ。あの偉大な光景を目の当りにして、なんかふっきれたんです。人類だって、いつまでも地球にしがみ ついてはいないんだってね」偉大な光景とは何か?「NASAですよ。STS-1号、宇宙輸送システムですよ」エビ爺 さんにはさっぱり分からない。
 そこにフーナを探してツナがやってくる。ディーンはツナなら知ってる だろうと聞いてみる。「君なら知ってるだろ?スペースシャトル」しかしツナも分からないと言って立ち去る。 ディーンがこの世紀の大ニュースを知らないはずはないと訝しがっていると、ふいに銃声と驚いた鳥たちが羽 ばたく音がけたたましく響いた。ディーンは慌てて音のした方へ走る。途中顔色を失ったフィッシャーにぶつ かる。フィッシャーは逃げるように去って行く。「大変だ、人が撃たれてるぞ!さっきのツナくんだ!」エビ 爺さんはディーンにツナの死体をビーチに運び岩影に隠し、この事は黙っているよう厳命すると退場する。
 ホーエルが現れ独白。「なぜ脅されたとはいえ、フィッシャーさんはいとも簡単にツナを殺してしまえたの でしょう?小官にはまったく理解が出来ませんでした」ミカエラが取引きを提案した夜、フィッシャーはツナ を殺す事は出来ないとミカエラに電話をした。そこでミカエラから全てを説明される。ツナは死なないし、殺 された事も覚えていないはず。イアンやエビ爺さんを見ろ、と。不死をもたらす置時計なのだ。
ディーン は、暑さが激しくなってきたため、ツナの死体をこのままには出来ないと思い火葬を思い付く。ビーチにはツ ナと待ち合わせをしたフーナが来て何も知らず座り込んでいた。そして岩影で火が焚かれる。フーナは何があ るのかと興味深く見ている。そこにサモンがやって来て何をしているのか聞く。ディーンは火葬だと説明する。 遺体を燃やして天に返すのだと。恐る恐る様子を見に来たフィッシャーが、その言葉を聞き大慌てで炎の中に 飛び込む。一同が唖然として見守る中、ツナを抱いたフィッシャーが現れる。そしてツナが息を吹き返す。死 んでもいないツナを焼こうとしたと糾弾されディーンは逃げる。フーナとサモンは彼を追いかけ退場。ツナも 良く分からないまま追いかける。
 フィッシャーは登場したミカエラに銃を返す。ミカエラは手形を フィッシャーに渡す。ミカエラは満足気に笑った。これで証明できた。あとは置時計をフィッシャーから奪う だけ。
Section13
 1934年のある日の 午後。時計の秒針の音。ツナが岬で拾ったガラクタの中の置時計を落としたシーンの続き。フーナが恐る恐る やって来て、ついさっきこの浜辺で不思議な声を聞いたと訴える。ツナは空耳だろうと取り合わない。ツナは 拾った髪飾りをフーナに渡す。あとの物はどうするの?と聞かれたので、骨董商のイアンに売ると答える。フー ナは、その人が今度私のお養父さんになる人だと語る。ツナが宝物みたいに抱えていた物が自分の養父の店に 売り物として並ぶのは見たくないとフーナが訴えるので、ツナは売るのを止める。そこにエビ爺さんとサモン が現れる。フーナはエビ爺さんを気に入った様子。ツナはペーパーウェイトが欲しいというエビ爺さんにガラ クタの中の置時計をエビ爺さんに譲る。エビ爺さんはイアンさんに自慢しようと嬉しげに去る。
 そこに 再び不思議な声が響く。「わしの忠告を」まで言ったところで、通りかかったクレアが声の主であるカニを発 見し「おいしそう!」と言って別荘に持って行く。「折角この島にとんでもない災害が迫っていることを教え にわざわざ来てやったのに。ここの人間共にはうんざりだ。みんな死ぬがいい」カニの叫びが聞こえるような 気がする。
Section14
 ビーチにサモンが 座っていると、フィッシャーの別荘の方から置時計を持ったミカエラと、それを追うようにホーエルがやって くる。盗むだけでフィッシャーを殺す必要はないではないか、とホーエル。殺せば盗まれた事を忘れるでしょ、 とミカエラ。ちょっと考えればミカエラが盗んだ事はバレルと、ホーエル。しかしミカエラは自分が不死身に なった事に舞い上がっている。ホーエルも早く置時計に触りたくてしょうがない。しかしミカエラは彼に置時 計を渡そうとはしない。言い合いになり、奪い合いになる。それを見ていたサモンはあれこそエビ爺さんの置 時計だと悟る。揉み合う2人の軍人の間から銃声がしてミカエラが砂にどっと倒れる。ホーエルは気色悪い笑 みを浮かべ置時計を手に去って行く。
 数秒とあけず甦るミカエラにサモンは腰を抜かす。ミカエラはサ モンからホーエルの行いを聞き出すと追いかける。でもあれは爺ちゃんの置時計だ!サモンも追いかける。
Section15
 昼のビーチ。いたいけ な少年を焼き殺そうとした極悪人ディーンは島中逃げ回っていた。そこにエビ爺さんがやって来る。「うちに 来れば匿ってやったものを」いろいろ話すうちにディーンは「確かに死んだと思った人が生き返ることもある かもしれない。だけど、そういう期待があって生き返らなかったら、そんな悲惨なことはないだろ」と呟く。 彼にはサラという妹がいた。しかしある日不慮の事故で死んでしまった。彼は信じられなかった。「絶対生き 返らせてみせるって妹の死体を焼かずにおいた。冷蔵庫にいれて保存して探しまくったさ、死体を生き返らせ る医者を。いなかった。そんで今度はジャングルの奥地とか死人帰りの伝説のある地域をかたっぱしから探し 歩いた。世界一周よ。ハイチで粉を見つけた。俺は喜んで家に帰った」しかし妹の蘇生は望めなかった。ディー ンはここでしばらくエビ爺さん相手に死についての論議を行う。やがてエビはディーンに自分の家に隠れてい るように言い、自分は島の者たちが暴発しないよう見張りに行くという。「胸騒ぎがするんでな。気付き始め ると厄介なことになる」
Section16
 エビ爺さんの危惧 は現実となった。ミカエラがホーエルから置時計を取り戻すどさくさにサモンが置時計を盗み出す。一方、 フィッシャー夫妻はミカエラが置時計を奪うため自分を殺した事を悟り、再奪還のためにミカエラを殺すとま くしたてる。クレアのお腹の中の子供は成長が早いらしくお腹を蹴るだけでなくしゃべるのだと言う。置時計 を手にしたサモンがミカエラとホーエル、そしてフィッシャー夫妻、フーナとはち合わせた時事件は起こった。 隙をついて逃げ出そうとしたサモンが、ミカエラの指示でホーエルに撃たれる。フーナは驚き叫び声をあげる。 「平気平気そいつもすぐ生き返るって、なんたって不死の置時計を持ってるんだからな」「不死の置き時計?」 フーナには状況が飲み込めない。「余計なことをペラペラとしゃべるな」とミカエラに起こられたホーエルは 「んじゃ、忘れてもらいましょう」と言ってフーナを撃つ。静寂。「その子は置き時計に触ってないわ・・・」 ホーエルは生き返らないものを殺してしまった。生き返ったサモンは傍らに倒れるフーナを見てその体を揺す るが反応がない。波の音が辺りを包む。そして、フーナも生き返った。
 結局、「死なない」という事と 置時計は全く関係がなかったのだ。ミカエラの推理は外れていた。こうして置時計を巡る争いはなくなり、置 時計はエビ爺さんの手元に戻り、ディーンの嫌疑も一応晴れ、島に平和が戻った。しばらくすると、この島の 人全員が死なない事が分かった。そうして島では殺人ごっこが流行り出した。死なないのだ、人々は軽く肩を 叩くような気持ちでお互いを殺すようになったが、誰も死なないのだ、なんとも平和な日々が過ぎて行った。 しかしハリケーンの直前には、一時の凪でさえ訪れる事態の壮絶さを物語らずにはいられない。島の平和は一 時の凪に過ぎなかった。
Section17
 こうした状況を憂 う人物が一人だけいた。エビ爺さんだ。今日も彼はディーンと歩きながら、命を粗末にしないよう島の人々に 呼び掛けて歩いていた。ディーンが島の登録所で面白い物を見つけたという。自分の前にこの島に外部から来 たのはフィッシャー夫妻だが、その日付けが間違えていて1934年になっているというのだ。エビ爺さんは間違 えていないと静かに答える。「なに言ってるんですか。1934年っていったら今から50年近く前ですよ。私だっ てまだ生まれてない」ディーンはミカエラが赴任して来て3年と言っていたのを思い出しエビ爺さんに告げる が「彼等は知らないんだよ。島の中にいると分からないものなんだな。知っているのはわしだけだ。漁に出て 島の外からものごとを見ることが出来る。何でもそうだが身近なことは追及しないもんだ。彼等はなぜ考えな い。死なないということがどういうことなのか。それは死が目で見えないほど近いところにあるからだ。あん たが、この島にやってきて、わしらのことが見えるということは、あんたはなにかしら死について考える運命 にあるからだ。だから死に惹きよせられてこんな島にきたんだ。「どういうことですか。おっしゃる意味がい まひとつ」「この島は死の中にあるんだ」
 エビ爺さんは静かに語りだした。1934年フィッシャー夫妻が 赴任してきた年の翌年、島に巨大はハリケーンが訪れた事を。ハリケーン・ミランダが去った後、島に生きる 者はいなかった事を。「ボケ老人の空想かもしれん。しかし島の人々が死なないことの説明にはなるだろ?」 「それじゃ彼等は自分が死んでいる事を知らないで、生き返ると思って殺しあっているわけですか?」
  あたりが騒がしくなり島の一同が集まって来る。フィッシャーがツナを撃った事、ミカエラがフィッシャーを 撃った事、ホーエルがサモンとフーナを撃った事など、お互い貶しあいながら手に持った銃を誰に向けるべき か楽しんでいるようにすら見える。やがてツナを焼き殺そうとしたディーンに銃口が向けられる。「馬鹿もの !その人は違う!」エビ爺さんは顔色を変えた。「その人を撃ってはならんぞ!」しかし、誰もエビ爺さんの 言う事を聞こうとはしない。ディーンに向けられた銃口は今にも火を吹こうとしている。
「賭けを提案し たいんだ。ゲームをしようじゃないか!」急にディーンが喋り始めた。「それも文化の売り込み?」「そうで す。賭けは偉大な文化です。ね。みんなで一斉に撃ちあうんです。お互いを。そして生き返りますよね。だか ら一番早く生き返った人が一番早く生き返ったで賞!ね」「何を賭けるのよ?」「そうですね。このビーチを 自由にできるというのは?何をしても構わない」ディーンはビーチの所有権を賭けてゲームをしようと言い出 したのだ。一同は賭けにのった。生き返っても賭けの事を忘れては意味がないというと、最近は慣れて来たせ いか覚えているとミカエラが言う。では忘れた人は失格ということで話がついた。それぞれが隣に人物に銃を 向け、一つの輪ができた。ディーンの銃はフーナに向けられた。カウントが始まる。「待て、ディーンさん。 分かっているのか・・・」エビ爺さんの声も空しく銃声が重なりあう。そして一同砂の上に崩れ落ちる。しか し何故かフーナだけは立ったままだった。「なんで?この人、撃たなかったの?」
 エビ爺さんがディー ンに走りよる。残りの人々が生き返ったのはほぼ同時だった。皆が見た物は誰よりも早く立ち上がっていたフー ナと、いまだに生き返っていないディーンの姿だった。ツナやサモンがフーナの勝利に沸き立った。しかしフー ナは沈痛な表情だ。「この人は私を撃たなかった。そしてまだ死んでる。死んでしまった」フーナのあまりの 表情に一同も焦り出す。「この人は、生き返らない。そんな気がするの。そんな気がするの」ディーンの傍ら でエビ爺さんも涙を流していた。「じいちゃん。どういうことだよ」サモンがディーンの死体を覗き込む。「こ の人は生きている人だ。だから生き返ることはない。死ねない者の中でただひとり死ぬことができた人間なん だ」子供達がいくらゆすっても、大人たちがいくら呼び掛けても、ディーンは動かなかった。日没に向けて波 の音が迫って来る中、皆が心の中でディーンが賭けに勝利した事を認めていた。
Section18
   島の人々が一人づつビーチに現れては、木や花を積み上げて行く。それは冒頭の木とカトレアのやぐらであり、ディーンの墓碑である。
ツナ「やっぱり。サー・ディーンは生き返らなかった。どうしてこの人は生き返らないのかという疑問はすぐに自分たちに向けられた。どうして自分たちは死なないのか。そして死なないことの意味を改めて心に問うた時みな慄然とした」
ホーエル「死なない理由をエビ爺さんが説明してくれた。それを聞いても僕たちはただ納得した程度だった。しかし死なないという意味は、誰の心をも平穏にすることはなかった。それは死なないことを知ってからの日々、人々がかくも互いを傷つけることに夢中になっていたことを思えば良かった」
サモン「爺っちゃんの説明は難しくも長くもなかった。そして最後に傷つかないもの同士の間には愛は生まれないのだと言いサー・ディーンはだからそのために死んだのだと繰り返した。その話しを聞きながらなぜ爺っちゃんが、僕を漁に出したがったか理解できた気がした」
クレア「私には子供は出来ていなかった。子供が産まれたら本国にいた頃両親から聞いた昔話を話していたかもしれない。昔、村に一人の旅に疲れた老婆がやってきた。村人は気味が悪いと老婆を追い出した。すると老婆は魔女に変身し村に呪をかけた。その呪とは死ねないこと。その魔女の名こそミランダだったのかもしれない」
ミカエラ「ミランダに呪われた村人はその呪いにも気がつかず生活している。魔女はそのことを怒り、ある日村にあるものを届けさせる。人々はそれを奪いあい殺しあうようになる。たしか宝石か何かだったような気がする」
フィッシャー「ある日、一人の旅人がその村を訪れる。結末はよく覚えていない。きっと旅人のおかげでその呪はとけたのだろうが、それは偶然だったのか、それとも彼の意志だったのか。とにかく単純な昔話だった。ミランダはすべてを洗い流してしまったのだろう。死ぬことも生きることも」
フーナ「命を賭けたゲームの勝者となったサー・ディーンは、ビーチを手にいれ命を失った。私たちはビーチを彼のものにした。ここは彼の眠る場所である。遺体は彼の提案した火葬にしたが祈りの方法は島の伝統にしたがった。今日はその祈りの日である」
 冒頭のシーンが再現される。陽気な音楽にのせてやぐらをかこんでおかしなポーズをするのである。それはディーンの墓参りなのだ。そして冒頭のフーナのナレーションが全員の上に響きわたる。
「このビーチは、私たちのものではありませんが、私たちにとって、とても大切なビーチです。もし、このビーチがなぜ大切なのかを忘れてしまったのなら、私たちと一緒に思い出しましょう。だって、ここは、島の人全員にとって、記念すべき大切なビーチなのですから」  それは悲しい墓参りの情景ではない。それは彼等が死と共に失った生を取り戻したことを喜ぶ祭典なのだから。-幕-