ミュージカル『黒い二、三十人の女』

歌詞と曲解説

 下記の音源は記譜ソフトで書いた楽譜をソフトウェア音源で再生しているだけで、参考程度の伴奏のみです。一応歌は最高に下手ですが録音してあります。もしお聴きになる場合は、是非、想像力を働かせてお聴きください。
■プロローグと第1場
S1《序曲》


M1《マロニエの枯れ木》

レプゴー:
  (コインを見つめて)
なんでも見たいように見ている
なんでも信じたいように見てる
  (伝令が登場。音楽を背景に台詞で二人のやりとり)
  (伝令が去った後、一通の書状が落ちている)
  (レプゴーが拾い上げ、伝令を呼び止めようとするが)
  (ふと思いとどまり、書状をじっと見つめる)
しましまカタツムリの家族が
マロニエの木の上の方に登っていく
それを見ていたんです


【解説】
■この曲のフルバージョンがM19《星空のブルース》、リプライズバージョンがM21《星空のブルース(reprise)》になりますので、そちらを聴かれることをお勧めします。
《序曲》が終わると、場所は国境にある村の街道。レプゴーが大きなマロニエの枯れ木の下に座ってコイントスをしている。《星空のブルース》のテーマでレプゴーが呟くように歌い始める(ヘ長調:4/4)とすぐ伝令が現れ会話。伝令が去り際に落とした手紙を拾うと、《娘からの手紙》の特徴的な音型(手紙のテーマ)が現れ、物語の始まりを暗示する。あまり歌う部分はない。
 レプゴーの調性はヘ長調を始めとする♭系の調性。これは♭に「落ちていく」意味を込めた。
M2《白黒はっきり(白と黒のワルツ)》

大公:
しまうまの白黒はなんのため白と黒か
ペンギンの白黒はなんのため白と黒か
白黒のその理由をはっきり白黒させる

しまうまの群れはサバンナにいる ライオンが狙ってる
しまうま一匹はぐれてしまうと食べられちゃう
だからしまうまは集まって白黒しましま一緒くた
一匹一匹見分けがつかなきゃ襲われにくい

しまうまの白黒はなんのため白と黒か
ペンギンの白黒はなんのため白と黒か
白黒のその理由をはっきり白黒させる
女声:
白黒のその理由をはっきり白黒させる

大公:
ペンギンのおなかが白いのは
海の底から見ると空と同じ色に見えるので襲われにくい
ペンギンの背中が黒いのは
空の上から見ると海と同じ色に見えるから狙われにくい

女声:
見えない 見えないの
しまうま、ペンギン、パンダの白と黒
しまうま、ペンギン、パンダの白と黒
白黒つけましょ 灰色はダメ 白黒つければ 世界も単純

大公: 「そう!その通り!しかし!」
パンダの白黒 なんのため白と黒か
住んでいる竹やぶは緑 特に敵もいないし


【解説】
《私の名前で船を出せ》の変奏によるファンファーレ(ハ長調:4/4+3/4 grandioso)で場面が変わり、大公の居城の秘密の部屋に大公が一人立っている。大公の周りにたくさんある椅子には誰も座っていない。神秘的なフレーズ(ヘ長調:3/4 misterioso)を背景に、大公は妄想の女性たちにしまうまやペンギンの白黒の体について語り始める。音楽が徐々に盛り上がり軽快なワルツ(変イ長調→ハ長調→ヘ長調:Tenpo di Valse)を歌い出す。女声合唱(舞台には登場しない)も交えながら(白黒のテーマ)ワルツは盛り上がり、最後にタンゴ風の挿入句(ハ長調:4/4→変ホ長調:3/4)が入り終わる。
 大公の調性はハ長調。#も♭もない単純な調性に短絡的、直情、思慮が浅いという彼の性格を込める。

M3 《二つの影の対話#1》

ネイダフ:ファーデン ファーデン
ファーデン:ネイダフか
ネイダフ:二人だけの回線だろ 機嫌が悪いな
     エスターライヒの件か
ファーデン:私の忠告をお分かりにならない
ネイダフ:あの方の頭では分かるはずがない
  正義 信念 お前の嫌いな正義 信念
ファーデン:正義 信念


【解説】
 通信音を模したアラームのような音型から始まる。これは、ヴァーグナーの『神々の黄昏』の第2幕第1場(アルベリッヒとハーゲンの会話)の冒頭の和音及びオーケストレーションを引用している。P.ブーレーズ「二重の影の対話」のモチーフを使ったネイダフ(舞台に登場しない)とファーデンの歌による対話(嬰ヘ長調:変拍子、ファーデンは、あまり楽譜通りに歌わず「parlante」気味でも良い)。《謁見の歌》のテーマも登場し、ファーデンの大公に対する不満を歌う。第3場でもう一度登場する。
 ファーデンの調性は嬰ヘ長調。大公のハ長調から最も遠い調性。複雑で冷徹、功利主義のイメージもあるが、「人間離れ」の意味も。

■第2場
M4 《スープが冷める》

エルミル:スープができましたよ 冷めないうちに食べましょ
ペルネル:神様への感謝の祈りをゆっくりしましょう
3人:アーメン
エルミル:さあ、熱々のスープが冷めてしまうわ
ペルネル:日々の糧に感謝します あんたたちお祈りが短い!
エルミル:神様がいて (ペ:日々の糧に感謝します)
マリアヌ:肉が煮えて (ペ:日々の糧に感謝します)
エルミル:スープに溶けて (ペ:日々の糧に感謝します)
マリアヌ:美味しくなって (ペ:日々の糧に感謝します)
3人:感謝してます
エルミル:さあ、スープを食べ・・・
ペルネル:「あ!」
エルミル:「何?」
ペルネル:髪の毛が入っていた
エルミル:いやだ気持ち悪いわ
  すぐに取ります (ペ:すぐに取ってよ)
  いやだ お母様 これ豚の毛よ (ペ:豚の毛?)
  そうよ(ペ:本当?)(マ:豚の毛)
  とっても(ペ:本当?)(マ:豚の毛)
  縁起良いわ(ペ:縁起が?)(マ:豚の毛)
  でも変ね、牛のスープなのに
  良い事がありますわ(ペ:あるかしら?)
  近いうちに必ず(ペ:必ず)
ペルネル&エルミル:お祈りした甲斐があったわ
マリアヌ:ぐちゃくちゃ混ぜ合わせる
  どろどろ混ぜ合わせる
  子牛の糞 子豚の糞 小鳥の糞 子馬の糞
  混ぜ合せる手でこねる足でこねる
  犬の糞 猫の糞 人の糞
ペルネル&エルミル:食事中よ!


【解説】
 牧歌風の前奏(ニ長調:3/4 pastorale)でほのぼのした夕刻の情景が始まる。信心深い母ペルネルと即物的な妻エルミル、口を開けば汚い言葉しか言わない娘エルミルのたわいのない晩餐の歌。
 歌い出しはプワスキ家のテーマ、「神様がいて」からが神様のテーマ。スープに髪の毛が入っている所でメロディが急に打ち切られ特徴的な増5度の和音が登場する。この「髪の毛」の和音にレプゴーのヘ長調が響く。「いやだお母様」からが説明のテーマ。「ぐちゃくちゃ」から再度、プワスキ家のテーマが変容と転調を繰り返し終わる。
後に《兵隊さんがやってくる》に多くのテーマが使用される。
【オーケストラ伴奏についての追記】本音源では、「フルート(ピッコロ持ち替え)、オーボエ、クラリネット、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、グロッケンシュピール、タンバリン、ソリッドバーチャイム、弦3部(ヴァイオリン、チェロ、コントラバス)」でアレンジしています。

M5 《娘からの手紙》

レプゴー:
生き別れていないことにしていた
娘からの手紙が今日届いたのです

もう会えない とっくに諦めてた
罪深いこの私に届いたのです

忘れられぬあの瞳とあの小さな手
神様がもう一度会わせてくれる

善良でも真面目でもないこの身に
慈悲深い神様が手を差し伸べた

死んだ妻が言い残した最後の言葉
もしあの子に会えたら伝えて欲しい ごめんなさい
 (間奏)
生き別れていないことにしていた
娘からの手紙が今日届いたのです

娘は今都にいるそうです
今すぐでも駆けつけたい 胸が震える

慈悲深い神様 一目だけでも
会わせてください 会わせてください

【解説】
 特徴的な伴奏(手紙のテーマ)で歌われるわざとらしく偽物のようなバラード。レプゴーが伝令の落とした手紙を生き別れの娘からの手紙と称し、娘への愛を白々しく歌う。不格好な音型、白々しい転調、おかしな音域。妙に陶酔的な間奏を挟み、偽善的なリフレインで終わる。後半にも重要なモチーフになる。
「慈悲深い神様が手を差し伸べた」の歌詞は、やがてプワスキがレプゴーに差し伸べるある「手」を予言。
 この曲は、レプゴーがハ長調で歌うことで、嘘、偽りを喚起するが、ハ短調や変ホ長調など♭系がレプゴーの本質を表す。
【オーケストラ伴奏についての追記】下記の音源では、「フルート2、クラリネット2、ギター、弦3部(ヴァイオリン、チェロ、コントラバス)」でアレンジしています。
アレンジの方向性を見誤った気がしますが、途中7/8拍子で入る管のフレーズや1番と2番の間のやや不穏な進行がよりレプゴーの真意を目立たせています。後奏にも怪しげなフレーズが現れ、《星空のブルース》のテーマも垣間見えます。
M6 《聖人の歌》

ペルネル:聖人だってお酒を飲む それでいい!
     酒屋を助ける良い人だ
レプゴー:「お肉だって、ほら!」
プワスキ:「肉屋も助かるってんだろ」

ペルネル:聖人だって豚を食べる それでいい!
     豚も成仏させてやれる
レプゴー:「そうきましたか!」
ペルネル:「他はないのかい?」

プワスキ:聖人だって親を泣かす それでいい!
     泣けば少しは気持ちが晴れる 「だろ?」
ペルネル:「つまらない!親を泣かすのは、お前だけだよ!」

マリアヌ:聖人だって娘がいる それでいい!
     娘がいなきゃ男が困る
レプゴー 「大人だね、マリアヌちゃんは」

マリアヌ:聖人だって妻を抱く  それでいい!
     抱かなきゃ妻が愛人作る 「でしょ?」
エルミル:「なんてことを言うの!」
ペルネル:「今に始まったことじゃないよ」

プワスキ:聖人だって人間なのさ それでいい!
     じゃなきゃ神様の立場がない
レプゴー:「お!うまいこと言うじゃないか」
ペルネル:「エルミル、なんかないのかい?」

エルミル:聖人だって嘘をつく  それでいい!
     神様だってたまには嘘をつく
ペルネル:「神様が嘘をつくのかい?」
レプゴー:「・・・それは、良い嘘なんでしょうね。意味のある嘘。」

エルミル:聖人だって物を盗む それでいい!
     猫に小判より聖人に小判
ペルネル:「盗みはしないだろ?」
エルミル:「それも、良い盗みなんでしょうね。
     (レプゴーを見て)意味のある盗み。」

レプゴー:聖人だって人を殺す それでいい
     (音楽、一瞬の沈黙)
     天国への近道なだけ
ペルネル:「それも、良い殺し?意味のある殺し。
     そんなのあるのかしら?」
レプゴー:「ありませんよ。」

レプゴー:聖人だって神を選ぶ それでいい!
     それがまさしく聖人の証


【解説】
 6/8の賑やかでくだけた雰囲気のいわゆる乾杯の歌(ト長調:6/8 giocoso)。聖人だって多少の悪いことはすると歌うが、徐々に不穏な内容になる。単純なメロディを伴奏が変化しながら何度も繰り返す。ロ長調のパートは物語に関わることを歌っている。やがて変ホ長調でレプゴーが本音との冗談とも取れないことを歌い、再びト長調で終わる。その後続く会話の中でも、この曲のフレーズで歌うように話される部分がある。
 レプゴーが最後に歌う部分は、変ホ長調となりレプゴーの♭も垣間見える。

■第3場
M7 《博士の愉快な研究》

博士:
愉快な研究だ 機械の人間を造れるなんて
最高のロボットをやっと造りだした 天才ですね

ロボットは機械的には人間より完全で
素晴らしい理性的な知性を備えておりますが
魂だけは持ってないのです

スラ:「で、私は何をすれば良いんですか?」
博士:「まだです。まだ続きがあるのです」

博士:
愉快な研究だ 機械の人間を造れるなんて

科学者の造り出した物の方が
神様の造り出した物よりも
技術的に完全なのです
このロボットのように


【解説】
 ハバネラ風の不気味な伴奏に支えられ、博士が大公の依頼で発明した新型ロボットについてスラに説明する歌(イ長調、ホ長調、ヘ長調の調性が漂う)。後半、Swing Jazz風のアレンジに博士の上機嫌さが伺える。最後にその場にいないロボット(マリウス)に対し「このロボット」と歌っているがこれは間違いではない。
 曲調は全く異なるが、後に歌われるアイヒロットの《はしごの子守唄》と同じメロディになっていることで、アイヒロットの出自を予言している。

M8 《傘を一本ここにすぐに》

スラ:こんにちは はじめまして
マリウス:はじめまして こんにちは
スラ:お名前は
マリウス:マリウスです ロボットだよ 
スラ:知っているわ どうぞ、そこ座って
マリウス:いいんですか
スラ:ええどうぞ
マリウス:マリウスだよ
スラ:知っているわ 博士から頼まれたの
マリウス:何を?
スラ:あなたの相手しろ ロボットの相手なんて
マリウス:ロボットなんでもできます
スラ:それじゃコーヒー持って来て
マリウス:ブレンドでいいですか?
スラ:マンダリン ミルク入り
マリウス:かしこまりました
スラ:「なんだか随分古いタイプのロボットねえ。」
マリウス:お待たせをいたしました マンダリンをどうぞ
スラ:「ありがとう」ちょっとこれぬるいみたい
マリウス:すいません すぐ温めます
スラ:もういいわ 他の事を頼みましょう
マリウス:他の事なんでもできますよ
スラ:本当?ロボットは計算なら得意かしら
マリウス:もちろんです
スラ:二千百かける七は?
マリウス:一万四千七百
スラ:ちょっと待って 当たってる
マリウス:当たり前 ロボットです
スラ:計算機でもできる
マリウス:他に何をしましょう (ス:他に何ができる?)
スラ:フランス語は?
マリウス:(フランス語でおもしろい事を言う)
スラ:ドイツ語は?
マリウス:(ドイツ語でおもしろい事を言う)
スラ:オランダ語は?
マリウス:(オランダ語でおもしろい事を言う)
スラ:スペイン語は?
マリウス:(スペイン語でおもしろい事を言う)
スラ:回ってみて
マリウス:クルクルクル クルクルクル
スラ:踊ってみて
マリウス:アン・ドゥ・トロワ アン・ドゥ・トロワ
スラ:歌ってみて
マリウス:シャバダバダバ シャバダバダバ

スラ:もういいわ (マ:できる)ねえとても(マ:できる)
   簡単だと思うけれど(マ:僕はなんでもできる)
   傘を持って(マ:傘を)きてもらえる(マ:できる) 
   傘を一本ここにすぐに(マ:傘を一本持ってくる)

マリウス:かさかさ さかさ まさかかさ 
     まっさか さかさ まっさかさま
     かさ かさ かさかさ かさ!


【解説】
 旧式のロボット工場のような雰囲気の機械的な伴奏に乗って、博士に頼まれたスラがマリウスに色々なことをさせてみる歌。難しい音の跳躍で代わる代わる歌っていく。コーヒーを運ばせる部分ではカフェ音楽のようなテーマ。後半、コミカルな掛け合いで転調を繰り返し(accel.agitato)、最後に静かな伴奏でテーマが歌われ、傘を持って来いという命令を与えられたマリウスが壊れて終わる。
 調性が定まらない曲。ロボットなのか人間なのかという意図。

M9 《最終テスト》

博士:いかがです?素晴らしいでしょ?傑作とはまさにこの事
大公:これが新しく開発したロボットか?
博士:さようです 完璧でしょ?まさしく人間らしい
大公:どう思う?ファーデン ひどく古いロボットじゃないか
ファーデン:ロボットなんて所詮はこんなものでは?

博士:今のは最終テスト 名付けて対面テスト
大公:そのままじゃないか博士 そのままじゃないか
   がっかりさせるな博士 私は幻滅したよ
ファーデン:「博士」
ファーデン:あれが大公の依頼したロボットなのか?

博士:大公は注文された 人間のようなロボット
大公:ロボットの召使い 人間そっくりにせよ
ファーデン:見かけだけ人間にして 中身は古いロボット
大公:新開発に成功したと言ったじゃないか
博士:はい 言いました
   「マリウス!」部屋を出なさい
(マリウス、動き出して退出。スラのみになる)

大公:私が命じたのは あんなロボットじゃない!
   人間そっくりに造れ 人間そっくり
   嘘をついたのか博士 必ず造ると言った
ファーデン:「博士!」
博士:嘘などつきません 私はもう造りました
   古いロボットと 対面させましたが
   それでも!それでも!
   自分がロボットと気づかなかった
   (スラを指差し)このロボットは!!


【解説】
 目の前で行われたスラとマリウスのやり取りをみて、実験の成功を喜ぶ博士。しかし大公とファーデンは古いタイプのロボットに幻滅する。しかし新開発のロボットとはスラの方だった。こちらもハバネラ風の伴奏にささえられ、主に4つのフレーズが繰り返される対話曲(ハ短調、調性検討中:4/4)。最後に一瞬《博士の愉快な研究》フレーズが現れ、後半のスラの数奇な運命を予感させる。

M10 《二つの影の対話#2》

ネイダフ:ファーデン ファーデン
ファーデン:ネイダフか
      お前の言った通りただの手伝いロボットのようだ
      より人間らしいロボットなんて馬鹿げている
      家畜は家畜、奴隷は奴隷、ロボットも所詮ロボット
ネイダフ:神は自分に似せて人間を作った
(間奏部)
ファーデン:「逆だろう?」
ネイダフ:「しかし、同じ性能のロボットに自分に
      出来ない事を命令するとはおもしろい。
      自分に出来ない事を人に命令する。まさに人間だ。」
ファーデン:「それだけだ。所詮猫に百獣の王は勤まらん。
      いや、猫の王様というのも存外悪くはないか」
ネイダフ:「何を考えている?」
ファーデン:「国の財源で作られたのだ。その分国の役にたてば」
ネイダフ:役にたつかな。所詮はよくできたからくり人形
ファーデン:操り人形
      「なるほど。」


【解説】
 再びアラームのような音型から始まる。ファーデンとネイダフが、大公が作らせた新開発のロボットを無駄なものと断じ、何か良い使い道がないか考える対話。基本的には前登場時と同じ。《最終テスト》の下降形の音型が上行形になって登場。《謁見の歌》の伴奏に載せて台詞がある。

■第4場
M11 《ついていく(プワスキ、愛のバラード)》

プワスキ:
村を愛し人を愛し祈り捧げ
人生をただ人のため尽くして来た
神様がくれた村の宝を

この旅路は危険だから一人じゃ
付いていって俺があなたを守ってみせる

生き別れの娘に会うこれからの旅
愛に満ちたエンディングで終われるようにするよ

この世には悪い奴がたくさんいる
俺の命 代わりにしても
あなたのこと きっとどこまでも守ってみせるよ

盗賊から 獣から
あなたの盾になってナイフからでも必ず守る

生き別れの(ペルネル:付いていくのか)
娘に会う(レプゴー:付いてくるのか)
これからの旅(レプゴー&ペルネル:大事な人を)
愛に満ちた(ペルネル:付いていくのか)
エンディングで(レプゴー:付いてくるのか)
終われるように(レプゴー&ペルネル:助けるために)

盗賊から 獣から
あなたの盾になってナイフからでも 必ず守る


【解説】
 プワスキがレプゴーの素晴らしさを歌い上げ、ボディガードとして都への旅に同行し、レプゴーの身を守ると誓う歌(ト長調)。一見普通のバラードだが、1小節ごとに調性が変わるなど実は不安定。中間部では、レプゴーとペルネルによるオブリガードが入る。《おいていく》や《星空のブルース(reprise)》にもつながり、レプゴーを守るというフレーズが、最後にレプゴーの死のフレーズとなって戻ってくる。
 プワスキの調性は、レプゴーに対し、♯(上がっていく)の調性でト長調。ト長調は正義のイメージ。

M12 《不在の耐えられない軽さ》

エルミル:
あなたが旅立つ 私は見送る
時々感じる あなたの不在を
すぐおうちに入ろう 朝はまだ寒い
風邪をひくよと
あなたが振り向く 私はうなづくの
おうちに入ろう

あなたがいなくてもジンを冷やすわ
あなたの代わりに私が飲んでるわ
スープが冷めても気にしないわ
本当は私スープが嫌いなの

あなたが旅立つ 私は見送る
時々感じる あなたの不在を
そう 偽りの言葉も 朝もやが消すわ
聞いてないよと
あなたが遠ざかる 私が消えてくの
おうちに入ろう


【解説】
 エルミル唯一のソロ曲。プワスキとレプゴーの旅立ちを見送り、残される自分の境遇を6/4拍子で淡々と歌う(ヘ短調)。前奏はドヴォルザークの「家路」のイメージ。途中7/8の1小節が立ち止まるような印象を残す。ただし、彼女が「不在」と感じるのは、夫であるプワスキなのか?「あなたがいなくても」と歌い始める中間部のワルツ(ヘ長調:3/4)がヘ長調であることでレプゴーを暗示しているとも取れる。この曲の音型が後奏を経て次の《二人旅のマーチ》につながる。
【オーケストラ伴奏についての追記】下記の音源では、「フルート2、オーボエ、クラリネット2、ホルン3、トランペット、トロンボーン3、ティンパニ、グロッケンシュピール、タンバリン、弦3部(ヴァイオリン、チェロ、コントラバス)」でアレンジしています。

■第5場
M13 《二人旅のマーチ》

プワスキ:二人旅をすれば なんにも怖くない
     谷底、岩山、崖の上
     ほら勇気がわいてくる
レプゴー:「そんな所は通らないよ」

プワスキ:二人旅をすれば なんにも怖くない
     獣に怪物、猿の群れ
     そら逃げるが勝ちさ
レプゴー:「逃げるんじゃないか」

レプゴー:街へ続く道はまっすぐに見えるけれど
     どんな道もいつか必ず曲がっていく
プワスキ:「そりゃそうさ!」

プワスキ:俺と旅をすれば なんにも怖くない
     ナイフをぎらりとひらめかせ
     どんなワルもいちころさ

     あなただけを守り あなただけのために
     この身をひらりとひるがえし
     あなたの盾になる

レプゴー:旅は道連れと昔から言ったけれど
     狭い橋を渡る時は一人で行こう
プワスキ:「一人ずつな」

プワスキ:暗い道も 深い森も
レプゴー:曲がる道も(プワスキ:二人旅をすりゃ 何も怖くない)
     狭い橋も(プワスキ:道が曲がっても 橋が狭くても)
プワスキ:手を取り歩こう
レプゴー:ナイフはしまえよ
プワスキ:「あなたのためだ」
2人:二人なら怖くはない

【解説】
 レプゴーとプワスキが都へ旅をする様子を描いた行進曲。スーザの「星条旗よ永遠なれ」のイントロのパロディから軽快なマーチが始まる。最初のフレーズはプワスキが二人旅の良さを語るが、次のフレーズでレプゴーの本心がちらつく。実際二人で旅をするシークエンスはないので、この曲で二人が親密だった様子(一方的かもしれないが)を描く。
「星条旗よ永遠なれ」の他「ワシントンポスト」「ボギー大佐」「雷神」「双頭の鷲の下で」など有名な行進曲のフレーズを引用。
M14 《パノプティコンの歌》

ピン:「完全な」
ポン:「自動的な」
ピン:「最高の」
3人:「牢獄!!」

ステッティン:
この牢獄 ちょっと不思議 向こう側に壁がないぞ
それなのに誰も逃げない
完全で自動的で最高の牢獄

牢獄には鎖はない 眼差しで縛られてる
自分自身に縛られている
囚人と見張り番を一人で演じてる

ピン、ポン、ピン2:
高い塔がありました
誰がいるか分かりません
高い塔がありました
誰がいるか分かりません
誰かがもしかしたら見ている

プワスキ:「本当か?人の姿なんて見えないぞ」

ステッティン:
見えなくても良いのだ
いやむしろ見えないように高い塔にしてある
そこに見張りがいるという事実が
お前らの体に染み付いて離れない

正確に言えば塔に見張られているのではない
体に染み込んだ眼差しが自分を見張り続けているだけだ

お前らはまずは囚人であり同時に見張り番である
インプットに従って同時に行う
逃げない事と逃がさない事
ピン、ポン、ピン2:
インプットに従って同時に行う
逃げない事と逃がさない事
ステッティン:まるでロボット
ピン、ポン、ピン2:まるでロボット
ステッティン:まるで ロボット

プワスキ:「よく意味が分からねーな」
ピン:「簡単に言うとこういう事です」
プワスキ:「まだ、歌うのかよ」

【解説】
 旅の途中、牢獄に繋がれてしまったレプゴーとプワスキはアイヒロットと名乗る記憶のない少女と出会う。ステッティンと名乗る監守が現れこの牢獄(パノプティコン)の素晴らしい仕組みについて歌うバッソ・ブッフォが歌うようなおどけた曲。ステッティンの音域は非常に広く書かれているが、彼の性格が出れば、状況に応じてどの音域で歌っても可。
 イントロはJ.シュトラウス2世の『こうもり』の「牢獄の動機」で変ニ長調で入るが3回転調させて変ホ長調で歌い出す。第2コーラスは再び「牢獄の動機」でヘ長調に転調。三度「牢獄の動機」でト長調に転調。この部分は、囚人たちの歌う新しい旋律になる。ここでオペラのパロディらしくチェンバロだけを伴奏にレチタティーヴォが入り転調を繰り返し、最後は、ナポリ風の(?)賑やかな合唱に発展する。(今回はかなり適当なアレンジになってます。とりあえず雰囲気はこんな感じというレベル。)
 ピン、ポン、ピン(パンではなく、同名のピンが2人いる)の部分にはプッチーニの「トゥーランドット」を引用する予定。
M14-2 《パノプティコンの歌(承前)》

プワスキ:「よく意味が分からねーな」
ピン:「簡単に言うとこういう事です」
プワスキ:「まだ、歌うのかよ」

ピン:前を見ても
ポン:鉄格子はない
ピン:後ろを見ても
ピン:壁すらない
ピン2:僕たちは
3人:囚われてるの?
3人:誰かの目が見張っている、そう思い込むだけ

3人:
逃げ出しても囚われてる
牢を出ても自由はない
軽度と緯度で閉じ込めて
世界中が見張り合って
完璧 自動的な牢獄

【解説】
上記の《パノプティコンの歌》の続きをピン、ポン、ピン2が歌う。

M15 《おいていく(プワスキ、涙のバラード)》

プワスキ:
迎えにくる 迎えにこない 道は二つ
助けにくる 助けにこない
道はいつもコインの裏と表のようだけど
この旅路は危険だから 一人じゃ
ついていって俺があなたを守るよ

ついていって獣からも 盗賊からも
あなたの盾になり
ついていって不意打ちからも 裏切りからも
あなたを守るつもりでついてきたのに
こんな所で一人きり


【解説】
 プワスキ以外の全ての囚人が釈放され、おいていかれたと感じたプワスキが歌う。《二人旅のマーチ》のテーマ(これは《不在の耐えられない軽さ》のテーマでもある)が残酷な前奏となり、《ついていく》のメロディが短調に変容してプワスキの絶望を歌い上げる。最後の6/8になってからはさらに悲痛な叫びとなる。