脚本について | |
「20XX年。ロウアー・サークルのアパートメントハウス。スペシャルKと呼ばれるドラッグによる幻覚を楽しむ女の子、アディとティラ。そんなある日、シチズン・コップの資格を持つティラは、アディをレイプ未遂したとして、少年、ジュースを逮捕する。彼女らは、そのお陰で、生活に困らないお金を手にしたが、ジュースの兄であった著名なジャーナリスト、レミックス教授は、彼女らの犯罪を偽装と見破った。その頃、レイプ未遂事件の報道を担当していたニュースキャスターのジョンは、監獄の中のジュースが、自分を兄と呼び、助けを求める夢を見る。そして、ジョンが取材と称し、二人のアパートメントハウスに乗り込んできた時、ティラは思いがけない行動に出る。四人の役者と、四台のテレビモニターやプロジェクターを使った大がかりな装置に、メディア、友人、兄弟、他人といった関係と、現実と仮想の境界が再現される。」 これが、コントローラー370のちょっとオーバーなキャプチャーになります。SPEAKER370では、「始めに題名ありき」である場合が多く、今回は、「コントローラー370」というタイトルが先に決まっていました。そこから、作品を考えていくわけですが、最初、コントローラー、つまり管理人さんの話を書こうと思いましたが、それでは「めぞん一刻」になってしまいます。そこで、明確に覚えているわけではないのですが、社会学者マクルーハンが語っていたメディア社会からの『リア王』の解釈を何かの本で読み、なにか、関係性を考える芝居にしようと思いたったわけです。さらに、その前に、ニューヨークに旅行に行ってましたので、その時の印象から「オルタナティブ・プレイ」なんてものを標榜し(某作家より早いです)書かれた作品が、「コントローラー370」です。この作品は、「関係の暴力」を訴える「関係の演劇」という事になっており、関係のオルタナティビリティ、メディアとの関係、関係のステータス化が、ところどころに現れています。関係は支配であり、操作である。だから、関係はゲームなのです。ただ、表面的な印象としては、どうやら、「一人っ子はわがまま」という感じだったようです。 この作品が、上演用の脚本としては、2作目になりますが、この時は、相当ストレートプレイを意識して書いたように思えます。したがって、幾分堅苦しい内容になっています。 | |
演出について | |
演出については、この作品も、他の私の作品と同じように、登場人物が本音を語っていません。嘘をつく人物が非常に多く、たいてい言葉の裏には別の感情や、別の意味が隠されているので、役者との話し合いを通して、その辺りを明確に形にいていく必要があります。とりわけ、ジョンが復讐を決意する動機(動機と言えるような物ではない)と、殺されるかもしれない土壇場で、ティラがアディを裏切ってみせる動機(安易なものではない)が、軽くならないように作っていく必要がありました。そういった、内面的な事を重視しなければいけない反面で、上記のような映像との掛け合いや、4人芝居と言う事での衣装の早替え、そして、最後のバスルームの半透明なガラスタイルに鮮血が飛び散る等といった(あまりうまくいかなかった)仕掛けもあり、一定の精度を保ったまま両者のバランスを取る事を目指されましたが、とりわけ、人がいない時期だったので、いろいろ苦労があったように思えます。 ラストシーンで、パーティーのためタキシードを着たジャバル・レミックスが、アディの作品を床に落とすと、オブジェの中からバラの花びらが飛び散り、教授が観客に一礼するシークエンス(上記のオリジナル曲が流れるので、ここから5分間の役者の挨拶までが、一連の音楽に合わせた動きになっている)は、オペラのようで(というか、明らかにあるオペラのある演出家の影響を受け)好きな部分です。 | |
登場人物について | |
この作品は、5人の登場人物を擁する4人芝居となっており、登場人物は外国人です。彼らの名前は旧約聖書の4章にある二人の妻を娶ったレメクの話しからとられています。この作品で、なぜ、レメクの物語が採用されているかと言うと、レメクが二人の妻に歌った次のような言葉があったからです。「アダとツィラよ、聞けわが声を、レメクの妻らよ、耳傾けよわが詞に。われは受けた傷のために人を殺し、打傷のために若者を殺す。カインのための復讐が七倍だとすれば、レメクのためのは七十七倍!」二人の妻を娶るという堕落(ここではオルタナビリティと捉えたい)も作品上のカルチャーに符合するのですが、さらに、復讐劇と捉えた時に、ある人間の為に復讐をする人物が、誰であるのかという「関係」の面白さにも、対応するような気がして、名前の出典としました。 | |
ティラ・クレメンス | |
ティラ・クレメンスは、遠く南部の富豪クレメンス家の血をひいているが、現在は、決して裕福とは言えないただの女性です。このティラという名前は、旧約聖書のレメクの二人の妻の一人ツィラからとりました。その意味は「影」「保護」だそうです。ティラは、アディの影に隠されながらもアディを保護する人だと言えます。 | |
アーダス・ヤンスン | |
通称アディ。アーダス・ヤンスンが正式名で、デンマーク移民の子孫です。この名前は、レメクの二人の妻のもう一人アダからとり、その意味は「装飾」です。アディは虚飾を好みます。 | |
ジュバル・レミックスとジャバル・レミックス | |
この作品に登場する兄弟(一人二役)、兄のジャバル・レミックス教授と弟のジュバル・レミックス(通称ジュース)ですが、この2人の名前は、レメクとアダの間に生まれた兄弟、ヤバルとユバルからとりました。ユバルは「竪琴や笛を奏でる者」で、この名を与えられたジュースは確かに現実離れしています。ヤバルは「家畜を買い天幕に住むもの」で、ずっと現実的です。もちろん、レミックスという姓もこのレメクからとりました。 | |
ジョン | |
この4人の危うい関係性の中に、無関係に介入して来るのが、ジョンです。ジョンだけは、「Are you sleeping?」という民謡にでてくる「Brother John」からとりました。劇の中で、「寝てるの?」という呼びかけはジョンにされているわけです。劇中では、ジョン・ウォーターズと名乗っていますが、某監督とは無関係のはず。ちなみに、レメクとアダの子は紹介しましたが、レメクとツィラの子にトバルカインという男がいます。劇中では、ジョンの番組の名前が、「トバルカイン」となっています。 | |