SPEAKER370 volume.03

『CheeseBurgers』

(チーズ・バーガーズ)

More ECCENTRIC Stage Show!!

チーズバーガーズは、近代理性主義批判の寓話です。科学と教育の世紀に対して投げかけられたスプーン一杯のメラトニンのようなものです。意味不明ですが・・・。

→あらすじ

フライヤー  フランスはソルボンヌ帰りの天才外科医、井村義彦は、できるだけ手術を避ける甚大病院のやり方を軽視していた。医学的知識のやたら乏しい院長、手術に対して臆病と思えるくらい消極的な澤田外科部長。特に頭のおかしいルナルナというドラッグクィーン女医(?)は、彼につきまといことあるごとに彼の邪魔をする。
 井村は病院がほったらかしにしていたモヤモヤ病の末期患者、牛子ちゃんの開頭手術を試みるが、途中で手術を断念せざるを得なくなる。牛子は彼を慰める。その頃「医食獣」と名乗る何者かが、病院の患者を次々治しているという噂が飛び交う。そしてついに、井村でもそして現在の医学でも治せなかった牛子ちゃんが「医食獣」によって全快してしまった。井村は狂ったように「医食獣」の正体を暴こうとする。院長が配っていたチーズバーガーをきっかけに「医食獣」の正体を院長と見破り、なんらかの食餌療法がチーズバーガーに隠され密かに行なわれていると推理。迷路のような院内を隠された院長室へ走る井村は、ブラックジャックや母親の幻想を見る。
 井村はついに院長室へ辿り着き、院長に奨められチーズバーガーを食べるが、それは人間の内臓バーガーだった。この病院は、院長がチベットで入手した東洋的医学の発想に基づく謎の書物『医食獣入門』を実践していた。その教えとは「悪いところを食べよ」 医と食の関係、そしてチーズの意味が、院長と澤田の口から語られるが、患者の膵臓を食べさせられた井村はすでに正気を失っていた。この病院の新任医師は必ずこの人肉バーガーを食べさせられる。例えば、澤田は強靱な精神力でそれをのりきっていたが、 かつて井村と同じように、現代医学を信じ院長のテストにより狂気にいたったのがルナルナその人であり、井村を邪魔する行為の数々は、本能的に彼を守ろうとしていたのかもしれない。
 病院をやめ、田舎の診療所に落ち着いた井村は、牛子を看護婦にして幸せだった。何十年ぶりかで、井村を訪ねたルナルナは、二人の幸せな雰囲気に、少し落胆して一曲歌い、エンディングとなる。
*なお本作品は、上演稿において演出の手で加えられたシーンがありますが、ここでは掲載していません。


→脚本について

「<チーズバーガーズ>。その名の通り、今回のテーマは「食」です。といっても、グルメものでは、ありません。舞台はフランスのソルボンヌから横浜の総合病院。天才と呼ばれる外科医をとりまく、グロテスクでキッチュな病院関係者。<ベタベタ>から<ナンセンス>まで、笑いをショーアップしたステージライヴがあなたの「食」感を刺激するはずです。」

 今回のテーマは「食」ということで、ガストロノミー?それともグルメ物?といろいろ考えました。しばらく演出と話しあいを重ね、視点を一度「医療」に移す事を思い付き、医者モノになりました。そもそも中国では「医食同源」と言いますし、薬と食べ物、どちらが口に入れる時、その正体が気になるかと考えた時、これは医療で行こうと思いました。そもそも、「どうしてみんな、自分が口に入れるモノに、そんなに無頓着でいられるのだろうか?」という所から、創意が始まっているのです。物語の背景は、病院での人肉食というグロテスクな物です。病院のイメージはあくまでも、狂気の秘密に満ちた閉鎖的な空間です。要するに「迷宮」なのです。ちょうど『キングダム』のような感じかもしれません。そして、これだけダークな背景の上でショーアップ・コメディが繰り広げられてしまう所が、やはりキッチュで、キャンプな感じです。そして、「チーズバーガーズは、近代理性主義批判の寓話です。科学と教育の世紀に対して投げかけられたスプーン一杯のメラトニンのようなものです。」との言葉が語るように、理性や科学至上主義、西洋的価値観にちょっと眠ってもらおう(メラトニンは睡眠ホルモン)と言う趣向でもあります。食という行為を生肉に対する、味や香りでの隠蔽ととらえ、医療にはびこる隠蔽とつきあわせたこの作品は「お笑い」でありながら、一つの文化論を提示していて、しかも病院での人肉食というショッキングな題材で私の脚本の中でも相当の異色作のような気がします。

 さて、今回登場するのは、4人の医者と1人の患者です。主役はこの患者ではなく、1人の医者です。彼はソルボンヌで天才的な手術能力を身に付け、アメリカのスローン・ケタリング記念病院の誘いを蹴って、横浜にある甚大総合病院にやってきます。この病院の「迷宮」に翻弄されていきます。彼の名は、井村義彦です。この人の名前には、特に出典がありませんが、残りの医者たち、甚大院長、外科部長の澤田、医者でドラッグクィーン(薬理学者かも)のルナルナの名前は、医者モノのバイブル『ブラックジャック』から取りました。作品中にも何ケ所か『ブラックジャック』からの引用シーンがあります。また、参考文献として、R.ヤングソン『危ない医者たち』青土社、トム・ダマー『チベット医学入門』春秋社、中野美代子『カニバリズム(人肉嗜食)論』潮出版社などを参照しました。

 また、 この作品では、ドラッグ・クィーンのLuna☆Runaが歌い踊るのですが、その選曲については、作者の方でわりと決定していたので併せて紹介します。ルナルナは、ミュージカル・ナンバーの他にシャンソンを歌う(口パクということです)設定になっています。 ジュリー・アンドリュースの声で 『サウンド・オブ・ミュージック』から「ひとりぼっちの山羊飼い」 「自信をもって」、 アン・ミラーの声で 『キス・ミー・ケイト』から「トゥー・ダーン・ホット」などが歌われました。

*上のスケッチは、院長先生を演じた木村修による