SPEAKER370 volume.5『BOEING 370』(ボーイング・サンナナゼロ)/SPEAKER370 volume.7『BOEING 370 remix』(ボーイング・サンナナゼロ・リミックス)/cube united works 2nd report『BOEING』(ボーイング)


用語集
 この作品は、平安末期の鎌倉(『BOEING370』では1689年の江戸)、現在のアメリカ東海岸、江ノ島、インド、そして2055年のジュネーブまで、とにかく時と場所が激しく交錯します。登場人物も専門知識層だけで、量子力学者、考古学者、ウイルス学者などが登場します(にもかかわらず、基本的にはコント集から出来ているという所がポイントなのですが)。下記に物語を彩るキーワードを紹介します。
ケープ・メイ
ニュ−ジャ−ジ−州。この作品では、ここにケープ・メイ州立総合物理学研究所があり、エムオーとデイナが潜入する。『BOEING370』では、この研究所はメンフィス・シティにあった。メンフィスという町も実際テネシー州に存在する。ちなみにエジプト古王国時代の首都もメンフィスという。ギザ周辺にピラミッドを建てまくった時代でもある。
病原体
主にウイルスや細菌を指す。病気の原因となる物質のことだが、実際、ウイルスと細菌はまったく違う物である。コレラやペスト、結核は細菌がもたらす病気であり、天然痘、日本脳炎、インフルエンザ、エイズ、エボラ、ガンなどはウイルスのもたらす病気である。
量子力学
物理学の一分野。20世紀の物理学の中心的課題。マックス・プランクの光のエネルギーに関する研究からはじまった。電子、光子、粒子などミクロな世界に視点を開き、宇宙誕生の謎にまで迫る最も現代的な科学である。フロイド博士は量子力学の専門家。
エマージングウイルス
新種のウイルスの事。
CDC
米連邦疾病管理センター。アトランタ郊外にある世界的な公衆衛生研究施設。CDC感染症センター特殊病原体課は、人を襲うウイルスや病原菌と人類との戦いの前線部隊と言える
ヒッグス粒子
質量を持たないとされる素粒子が、質量があるようにふるまうのは、宇宙に存在する未知の粒子とぶつかっている事によるとの仮説を元に想定される粒子。イギリスの物理学者ピーター・ヒッグス博士の名に由来する。ちなみに現在に至るまで、その存在は確認されていない。
ワームホール
もとは、虫食い穴の意味。一般相対性理論では、ブラックホール内での空間の方向をすべて逆にしたような天体も考えられる。つまりブラックホールの反対(出口)「ホワイトホール」である。このブラックホールとホワイトホールをつなぐ物が「ワームホール」と呼ばれている。ワームホールの中は時空が極端に歪み時空の距離がほとんどゼロになるため空間を瞬時に移動する「ワープ」が可能になる。作中ではフロイド博士がこの装置を実験段階まで完成させている。
ヘンロ−ペン岬
デラウェア州。デラウェア湾を挟んでケープ・メイの対岸。この作品では研究所から姿を消したデイナが現れる。
江ノ島
藤沢市にある有名な観光スポット。この作品では、考古学者の天田が江ノ島そのものが巨大なピラミッドという説を唱え、発掘を開始、そこには2体のミイラが眠っていた。
シュリーマン
少年時代に本の挿し絵で見た燃えるトロヤの町の絵を信じ、そこに描かれていたトロヤの実在を信じ、独力でその発掘に成功した、という逸話で有名な古代ギリシア研究の先駆者。その自叙伝「古代への情熱」も名著として読みつがれている。天田も同じように絵本に書かれたピラミッドの存在を信じている。
ピルトダウン
ピルトダウン化石人類偽造事件として、有名な科学史上最も有名な捏造事件。ピルトダウン人は、1912年の学会発表から1954年に否定されるまで、実に42年もの長きにわたって、世界を騙し続けた巧妙に捏造された偽物の化石である。この犯人は、いまだに見つかっていない。
扇ガ谷
鎌倉にあり「おうぎがやつ」と読む。この作品では平安末期、籐子姫の住む館があった。この館に鬼が現れたらしい。
酒呑童子
「しゅてんどうじ」と読む。丹波の大江山に住んでいたと伝える鬼神。源頼光とその四天王たちが退治する話は有名。
鬼は、日本における異形のものを代表している。もともと鬼は陰(おん)の変形で、寒波や疫病を表していた。「こぶとり爺」の鬼は、良いお爺さんのこぶを悪いお爺さんに付けてしまう。これは病の媒介という性格をダイレクトに語っているように思われる。作品中でもまさに鬼は疫病である。ちなみに鬼の代表的な姿形は、牛の角に、虎の袴である。これは、鬼門の方角が、いわば鬼の棲みかであり、その方角が、丑寅の方角(北東)に当たるためである。
精神分析学の祖フロイトによる精神の判断材料。よく言われるようにどんな夢を見たかということは、分析学の本来の対象ではない。患者の夢がどのように変容を受けているかが重要なのである。
ガンジス川
インドの有名な大河。コレラは近年まではガンジス川流域の風土病であった。1892年ヨーロッパに侵入し1877年日本に到達。翌々年に大流行を起し10万人の命を奪った。列強の不平等条約がコレラの侵入に気付いていた日本政府に検疫を認めなかったための惨事であった。この作品では天田がパンジャブ地方のラマ・チャイチャイの診療所を訪れる途上で溺死。イエロデザーターのアウトブレイクの起点となった。
アーユルヴェーダ
インドの伝統医学。生薬やオイルを使った療法や、それらと組み合わされたマッサージで有名。西洋以外の医学は、最近もオルタナティヴ・メディスンとして注目を浴びている。ちなみにアーユルヴェーダの治療方法は踊を伴った歌によって伝承されているらしい。この作品のラマ・チャイチャイ師はアーユルヴェーダの伝承者らしい。
アウトブレイク
悪いことの、突発、発生の意味。伝染病が発生すること。ダスティ・ホフマン主演の『アウトブレイク』という映画があった。
イエロデザーター
物語に登場する感染症の名前。人間を黄色い砂漠のように乾燥させミイラにしてしまう。黄色い砂漠〈desert〉からの造語。「黄色い砂漠にするもの」のような意味。ただし、〈deserter〉というのは、本来、脱走兵という意味しかない。正確に言うならば、〈desertificater〉とでも言うべきであろう。人間からイエロデザーターが消えた時、砂漠になるのは?
宿主
作品では「やどぬし」と言っているが、本来は「しゅくしゅ」と読む。作中での宿主は自然界においてその病原体を共生させているような存在を表している。いくつかの場合それら宿主は抗体を既に獲得しているから病原体によって発病することがない。例えば、狂犬病のウイルスの宿主はこうもりだが、これは犬や人に感染した時のみ激症を伴う。ターナーらが宿主を探しているのには二つの理由がある。一つはその病原体の来歴や進化の過程を探り病原体の謎を突き止めワクチンを作るため。もう一つは、もし宿主が抗体を有していたなら、その血清などを利用して発症者の治療の道が模索できる可能性があるため。しかし、ウイルスと細菌では、まったく治療法が異なるし、それらが進化をしていれば、過去の治療法は、通用しなくなる。この物語のような結末を向かえたとしても、人類が救われたという絶対的な保証はない。
抗体
外界の微生物が体内に侵入した時に免疫機能によって作られるのが抗体である。抗体はこの微生物を殺したり排除したりする。この抗体を作る対象を抗原といい、つまりそれは体にとっての異物のことである。抗体は白血球内のリンパ球で作られるが狙った相手にしか作用しない。天然痘の抗体は天然痘ウイルスのみを攻撃できる。はじめて侵入した微生物に対する抗体がつくられるためには6〜8週間がかかるが、二度目の侵入からは24時間以内にその抗体を作ることが出来るようになる。これはヘルパーT細胞がその抗原の顔を覚えているからである。ワクチンの接種はこの機能を利用したもので、多くの病気を「予防」することができる。なお、エイズを起すHIVウィルスは、ヘルパーT細胞に感染することで免疫機能そのものを不全にしてしまう恐ろしいウイルスである。
血清療法
抗原を接種して多量の抗体を作らせた動物や、回復期にある患者の血清などを注射して、病気の予防や治療にあてることをいう。ウイルス感染などで、血清が効果を持つのは初期の段階である。
カーボン14
炭素14を用いた年代鑑定方法。考古学などで使用される。
銅鐸
つりがねの断面の様な形の偏平な弥生時代の青銅製品。祭の宝器か楽器ではないかと考えられている。主に近畿地方から出土する。
USAMRIID
ユーサムリッド。米陸軍伝染病医学研究所。メリーランド州、アメリカ陸軍フォート・デトリック基地内にある施設。いわゆるレベル4の病原体を扱える世界の6機関の一つ。CDC(連邦疾病管理センター)と並ぶウイルス学の最前線。この作品では、エムオーたちが移送されようとしていた施設でニコラスはここの所属。
タイムワープ
上記のワームホールを人工的に作り出せれば、タイムワープも可能になる。そのタイムマシンをワームホーラーと名付けてみた。ワームホールは、同じ時間のブラックホールとホワイトホールをつないでいる。もし、このブラックホールを超音速で動かす事が可能であれば、特殊相対性理論によりブラックホールの時計は遅れることになる。時間のずれた出入口が「一瞬」で通過できるとすれば時空を超える「タイムトラベル」が可能になる。SFの世界では、このワームホールを利用する方法か、宇宙ひもという理論を応用するタイムトラベルが、よく使われているようだ。未来へのタイムトラベルはまた、別の知識と発想を必要とする。なお、作中に出て来るパラドクス理論という理論は創作である。
片瀬海岸
江ノ島を望む海岸。この作品では、鬼と籐子が最後に辿り着いた海岸。ここから2人はピラミッド=江ノ島に渡る。なお、江の島へ干潮時に歩いて渡れる様になったのは建保4年(1216年)なので、籐子の時代には徒歩横断は難しいのですが、奇跡が起きたのでしょう。
ジュネーブ
ターナーとエリアスの所属先と思われる国連世界保健機構(WHO)本部がある。ただしここに登場するジュネーブは2055年のジュネーブである。
生類憐れみの令
徳川五代将軍綱吉によって1687年に発令された。悪法との誹りもあるが、動機や目的を別にして考えれば、最も強い者が最も弱いものを守るという一種の社会正義の図式を保っている、気がする。『BOEING370』にのみ登場する。
参考文献
「人とウイルス 果てしなき攻防」中原英臣/佐川峻
「ウイルスX 人類との果てしなき攻防」フランク・ライアン 沢田博/古草秀子訳
「エボラショック」玉川重徳
「タイムマシン」Paul Halpern/江里口良治訳
「量子力学入門」並木美喜雄
「義経」司馬遼太郎