『★BINGO』

Act II Scene 4【SAVE】



 数日後。フラットにジャバルとリッツがいる。


テレビ ----------本日、全国から選ばれた初めてのサバイバル・ロッタリーの志願者たちが、その義務を果たす日となりました。
ジャバル 始まりましたね。
リッツ ええ。始まりましたね。
ジャバル 準備が忙しい所、すいませんね。しかもみんなに出かけてもらって。しかしどうしてもあなたとお話がしたかった。
リッツ いいんですよ。ちょうど、買い出しが必要だったから。
ジャバル なるほど・・・悪法だと思っていますか?
リッツ どうでしょうね。
ジャバル それにしても驚きました。急に兄弟保有者になられるとは。
リッツ 僕がやった事ではありません。
ジャバル 構いませんがね。双児の弟というのはそんなに突然出来る物なんですかね。
リッツ いえ、たまたま気が付かなかっただけでね。
ジャバル つまらない嘘はやめてください。全て調べさせてもらったので、分かってます。
リッツ なるほど。
ジャバル あなたの両親は、裕福だったが、独り息子のあなたにただ一つ重大な社会的ステータスを与えてやれなかった。兄弟です。お母さまはあなたを生んですぐに亡くなっている。そこで、あなたの父親はすぐにあなたのクローン人間を作った。しかしその意図は果たせず、逮捕されていますね。
リッツ クローン人間に特有のがんが発生する事を知ったのです。だから、逮捕されると分かっていながら出頭した。生まれたばかりのクローンは「D-レヴィ」を埋め込まれて、政府の監視付きで祖父の友人の所に預けられたそうです。クローンと言う事はその友人も知らないはず。それに戸籍局のクローン人間のデータは僕が消しました。
ジャバル それをあなたが引き取って、ここに匿っていたとは。それにしても偶然が重なり過ぎている。たまたま盗んだ物がクローンを人間化するナノテクマシンだなんてね。これはどういう事ですかな?
リッツ ICはダミーでした。部品の中にナノテクマシンが隠されていたんです。父は逮捕前に多額の金をある研究団体に投資してましたから、その団体を見張って完成を待っていたんです。ずっと。
ジャバル フランシスコ・ザビヌル&パウル・ペトルチアーニ・カンパニー。お父様が参与としていらした。
リッツ そうです。ですが、どこにでも頭の良いやつはいるもので、サバイバル・ロッタリー逃れに悪用しようとした。だから。
ジャバル だから、盗んで、こともあろうに、自分のクローンに使ったというんですか?
リッツ 分かってないですね。盗んだんじゃない。取り戻したんです。言ったでしょ、これは、僕の、いや僕たちの父の投資なのです。将来、僕が僕のクローンを本当の弟にしてやるための。フォリッツは「フォー・リッツ」の事なんですから。
ジャバル それをクローンに使い、その人間化した弟を一卵生双生児として戸籍登録させましたね。
リッツ それは僕のやった事ではありません。アイクとヴィックスはどうなります?
ジャバル 今、取り調べをしているが、たいした問題にはならないでしょう。いいですかアイクさんは、あなたと全く同じDNAを持っていて、そしてクローン反応がない。彼らの主張するように、あなたの兄弟と考えるしかない。
リッツ しかし、解剖されたら、「D-レヴィ」が発見されてしまうかも知れません。
ジャバル クローン反応のない人を、クローンの可能性があるという理由で解剖できる権限は戸籍局にはない。私のように事件の辻褄をサバイバル・ロッタリーと関連づけて考える者はいないでしょう。
リッツ そんなに甘いでしょうか?
ジャバル あなたたちは、期せずして、非常に重要な盲点をついているのです。本音を言えば、政府の人間にとって、誰がクローンで誰がそうでないかなど、どうでも良いのです。見分ける方法などないのですから。
リッツ そうですか?
ジャバル じゃあ、だめおしにもう一つ。今回選ばれた「志願者」は全国で100人です。そのうち事前検査で67人がクローン人間である事が分かりました。「D-レヴィ」を隠すような装置はフォリッツだけではないんですよ。いや、はっきり言ってフォリッツは駄作です。もっと精巧なものがいくらでもある。
リッツ その67人は?くじの引き直しですか?
ジャバル みんなばれないと思ってクローン人間を送り込んで来ているのです。しかしクローン人間からは、臓器の移植はできない。ほらあのクローン人間禁止法があるから。でも引き直しはあなただけです。
リッツ どういうことです。
ジャバル サバイバル・ロッタリー委員会では、当初から、このようにクローン人間が送り込まれて来るケースを想定しています。その場合は、目をつぶると決めてあるのです。
リッツ 目をつぶる!
ジャバル だからどうでも良いのです。健康な臓器が移植を待つ患者に届けば。言ったでしょ、私は、方法を問題視していない。大事な事は、より多くの人間が幸福になる事。そもそも人間とクローン、見分けのつかない物を差別するのはおかしい。それに始まったばかりの制度に最初からあまり問題が露呈するのはよくないのでね。
リッツ 随分穴だらけのビンゴなんですね。
ジャバル 当たり玉がたくさん出そうで景気が良いではないですか。そして、私たちが穴だらけだと分かっている、その穴をあなたがたは突いて来た、だから、ラッキーに事が運んだ。さて、いろいろ手の内をお話しましたが、私から一点お伺いしたい。あなたは、あなたのクローンを、つまりアイクさんを自分を助ける目的で人間にしたのですか?
リッツ 違います。彼を人間化する事は父の夢でした。僕の為に作ったクローンですが、やはり可愛かったのでしょう。そして、僕も、そう願っていました。
ジャバル なるほど。
リッツ レミックスさん。僕が選ばれた後、みんなでいろいろ話し合いをしました。この制度は正しいのかって。正義や、幸福、公平のためなら命すら価値を失うのでしょうか?
ジャバル 私は功利主義者です。命は価値ではなく、数だと考えてます。いや、考えるようにしています。
リッツ なるほど。



 ガヤガヤ音がしてアイク、ヴィックス、ミク、グレーブルが帰って来る。


アイク だから、胸肉はアウト・トゥ・ランチの方が安いって言ったんだよ!
ミク 馬鹿ね、あそこのアオクビは、まずいのよ!
ヴィックス あ、まだだった?
ジャバル いえ、もう終わりました。本当に急な訪問で申し訳ない。
ヴィックス グレーブルさんが差し入れにケーキを焼いて来てくれたぞ。
グレーブル リッツさんとアイクくんのセカンドバースデーって聞いたから。お口に合うと良いけど。
ジャバル では、私はこれで、失礼しましょう。楽しいパーティーになる事を。
リッツ ありがとうございます。



 レミックス、去ろうとする。


グレーブル あのー。レミックスさん。
ジャバル なんですか?
グレーブル サバイバル・ロッタリー法について、ちょっとお伺いしたいのですが?
ジャバル どうぞ。
グレーブル この法律の意味って何なんですか?
ジャバル ですからより多くの人間の・・・
グレーブル いえいえ、それは分かります。もっと根本的な話なんですけど。これ以上・・・これ以上人口を増やす必要があるんでしょうか?
ジャバル え?
グレーブル いえね。私、管理人をしている手前、ゴミが気になるんです。
ジャバル ゴミ?
グレーブル ほら人が増えるって事は、ゴミが増えるでしょ?サバイバル・ロッタリーは明らかに人口を増やしますよね。みんなが、正義だ愛だって話をしている時に、実に庶民的で申し訳ないんですけどね。
ジャバル ・・・。なるほど。おもしろい意見ですな。では、これで。
アイク レミックスさんもパーティーどうです?
ミク 馬鹿。
ジャバル 遠慮しておきます。ちょっと調べ物があるのでね。では、失礼。



 ジャバル急ぎ去る。


グレーブル 恥ずかしい事聞いちゃったかしら?
リッツ (感心して)いいえー。
ミク さ、主役の二人は座ってて。みんな揃ったら始めましょう!!



 以降の長い台詞の間に、次々と人々が集まって来る。ここに変化した人間関係があっても良い。例えば、ありがちだが、ロンとフシコが腕を組んで登場など。


ヴィックス 「こうして100人の志願者が、生きながらに臓器を移植されている日に、僕らは、夜を徹して楽しいパーティーを開いた。幸せと不幸せは、いつも僕らの頭上のビンゴからはじき出されて落ちて来るのだ。数日後テレビにジャバル・レミックスが登場するのを僕らは見た。彼は訴えていた。」


ジャバル サバイバル・ロッタリーによるかつてない人口増加率が生み出す排出物、つまりゴミを処理するためには、処理プラントの稼働率を100パーセントで試算しても現状のプラント数では足りず、100年後には、排出物の処理率は、76パーセントにまで低迷します。第一に衛生面からより多くの病人を出す事になり、これをカバーするだけのプラント増設にかかる費用、およそ3千万ディスクールは、現状では供出不可能なのです。もし供出できるとして、そのような大金を医療分野に投入すればサバイバル・ロッッタリー以上の幸福率を実現できる可能性は大いにあると言えます。したがって私ジャバル・レミックスは、サバイバル・ロッッタリー協議委員会として、この法案の見直しと再審理をここに要求するものとします。この法案は、憲法にうたわれた、国家の最大幸福の追求義務に対し違憲性があるものと主張します。」


ヴィックス 「サバイバル・ロッタリー法案は現在審議中のため中断されている。政府が犠牲者に謝罪する用意ができ次第廃案に持ち込まれるはずだとレミックスさんは言っていた。ゴミに救われたってわけだ、とヴィックスは笑い。リッツはグレーブルさんに感謝と言いました。こういった選択一つ一つが正しいのか僕らには分かりません。ただ分かるのは世界のどこでもビンゴは回り、いつの時代もくじは引かれるということ。いま、ひとつのビンゴが消えようとしてはいるけど、僕らの頭上、いや、足下にはいつも巨大なビンゴが回っているんだってこと。


  完